Vol.36 Before The Flood Bob Dylan & THE BAND 1974
攻撃的でパワフル。
ディラン、ロックンローラーと化す。
偉大なる復活/ボブ・ディラン&ザ・バンド
ザ・バンドのグルーブの効いた演奏に乗ってディランが吠える。8年ぶりの共演、大物同士の全米ツアーの模様を収めたライブアルバムにして、アメリカンロックの名盤。全米3位、全英8位。
このアルバムは、ディランを理解するための最初の1枚ではないかもしれない。しかし、カッコいいディランを体験するにはうってつけだ。選曲も人気曲がおおむね揃っており、ベスト盤に近い。さらに演奏が素晴らしい。
ディランのバックを務めたのがザ・バンドなのだ。すでに人気、実力の面で申し分ない風格を身につけていた。’60年代のディランのバックバンド時代とは違う、全盛期のパフォーマンスを聴くことができる。
1974年1月、ディランはザ・バンドとともに全米ツアーを開始。その直後には、ザ・バンドを招いて前年11月に録音したアルバム『プラネット・ウェイブ』(これも傑作で全米1位)を発表、その時点で両者共演のツアーは決まっていたという。勢いのついたところでのツアーとなった。
後にディランは「私はボブ・ディランを、ザ・バンドはザ・バンドを演じていただけだ」、「そのツアーで我々が受けた一番の賞賛は<信じがたいエネルギーだ>だった。その言葉を聞くと吐き気をもよおすね。」と述べている。本人は気に入らなかったようだが、ツアーは内容でも商業面でも大成功を収めた。
ここでのディランのパフォーマンスは、怒れるロックンローラーという雰囲気で、60年代のフォークの旗手イメージとは対照的だ。「Blow the wind(風に吹かれて)」など、フォーク時代の曲もロックにアレンジされている。
歌い方も、声を張り上げ、怒鳴り散らかすようなスタイルで、風貌も無精ひげにサングラスと不敵な面構えをしている。
アルバムはディラン&ザ・バンド、ディランの弾き語り、ザ・バンド単独と3部で構成されているが、やはり聴きどころはディランとザ・バンドの共演パートだ。アルバム冒頭と終盤に収められているが、編集してまとめて聴くとよい。ハイテンションなロックンロールが味わえる。
白眉といるのが「Like a rolling stone」。オリジナルバージョンよりもハードで迫力がある。ザ・バンドがディランを煽るように演奏する。それに乗って、ディランも吐き捨てるように、「どんな気分だ、転がる石のように生きるのは!この野郎!」という感じで歌う。最高だ。
このアルバムにはザ・バンド単独のライブも8曲収録されているが、それらもみな素晴らしい。「The Weight」、「I shall be released」、「Stage Fright」といった代表曲も披露されている。特にディラン作曲の「I shall be released」はリチャード・マニュエルの物悲しい歌声が沁みる。
とかくディランは歌詞の方が注目されがちだし、時代によってサウンドもフォーク、カントリー、フォークロックなどバラバラだ。しかし、このアルバムは、弾き語りはあるにせよ、ロック一色だ。ディランに興味を持ったら、そしてロックが好きなら、ここから聴き始めるとよいのではないか。
♪好きな曲
Like a rolling stone
『追憶のハイウエイ61』収録。原曲をしのぐ全員攻撃的な演奏がカッコいい。
Rainy day woman
『ブロンド・オン・ブロンド』収録。ブギーなアレンジで原曲からがらりと変身。
Lay lady lay
『ナッシュビル・スカイライン』収録。これも力強いロックナンバーにアレンジされた。
Vol.35 ABBEY ROAD THE BEATLES 1969
再び生まれた4人のマジック、
有終の美にふさわしい輝きを放つ。
アビー・ロード/ザ・ビートルズ
最高作に挙げられることが多い、ビートルズの(実質的な)ラストアルバム。解散風の吹き荒れる中でも、4人の才能がフルに発揮され、完成度の高い作品となった。全英、全米ともに1位。
最高作と言われるわりには『アビー・ロード』はそれに見合った評価がされていない(気がする)。不朽の名盤として半ば神格化されている『サージェント・ペパーズ~』、革新性が高評価の『リボルバー』と比べると、地味な扱いを受けているふしがある。
それでも『アビー・ロード』は有終の美を飾るにふさわしい、ビートルズの到達点といっていい。確かに際立つような革新性は(表立っては)感じられないが、楽曲、編曲、演奏には4人がこれまで得てきたものが成熟されたかたちで表現されている。
クラシック、ポピュラー問わず様々な音楽のハイブリッドを究めながらも、大衆的なスタイルで表現してきた彼らが最後に創り出したのは、普遍性の高いロックだ。
’69年といえば、色々なスタイルのロックが育っていた時期だが、そんな中でもビートルズは、わが道を行くと言わんばかりにプレーンなスタイルで臨んだのである。
それゆえに革新性がないということで、素晴らしい内容なのにそれほど高く評価されていない。しかし、その普遍性が21世紀の今でも鮮度を保たせている。オールディーズなのに古臭さを感じさせない。
『アビー・ロード』の制作は、とん挫したゲット・バック・セッション(後にラストアルバム『レット・イット・ビー』としてまとめられる)の3か月後、’69年の5月頃にポールがジョージ・マーティンにプロデュースを依頼したところから始まる。
この時期のビートルズはというと、解散の雰囲気が漂い、ビジネスをめぐるメンバー間の対立などごたごた続きであった。そういう状況の中で制作が進められていくわけだが、録音は精力的に行われたという。
楽曲の半分くらいは『アビー・ロード』の制作前に作られているが、これが最後かもという気持ちがそうさせたのか、険悪だったゲット・バック・セッションとは対照的な雰囲気だったようだ。それがうまくいって、完成度は高い作品に仕上がった。
聴きどころは最後を締めくくるメドレー。見事というしかない。いまひとつな曲もあるが構成が巧みで、粗が気にならないどころか感動すらしてしまう。ポールの卓越したアイデアと編集能力の賜物だ。
ポール、ジョージ、ジョンのギターソロの掛け合いも、リンゴのドラムソロも美しいコーラスだってある。アルバムの最後にぴったりのジ・エンドだ。
その他にも「Something」「Here comes the sun」というジョージの素晴らしい2曲、後に「あれはポールのアルバムだ」と批判めいたことを残したジョン作のブルーズ「Come together」「I want you」、いい箸休めのようなリンゴの曲もあってバラエティに富んでいる。
なんだかんだ言っても、4人はビートルズへの愛とプライドをしっかりと証明してくれた。余力も未練もまだあるうちに、これで終わりにしたという選択はファンから見れば残念だが、彼らとしては精一杯の別れのあいさつだったのだろう。
♪好きな曲
Here comes the sun
ポジティブな歌詞とさわやかな曲調が心地よい。カバーも多い、ジョージの大傑作。
Come together
冒頭の`シュッ’がshoot me(俺に打て)というのは有名な話。リフがカッコいい。
You never give your money
ポールらしい美しいメロディ。小組曲のような構成は彼の十八番になる。
Vol.34 CARAVANSERAI SANTANA 1971
熱気とクールネス、圧倒するほど
ダイナミックなアンサンブル。
キャラバンサライ/サンタナ
フュージョン時代の最高作だ。リズムの洪水の中を縦横無尽に駆け巡るギター、ドラマティックな展開に圧倒される。インストゥルメンタル中心ながら、全米8位。
一般的には、フュージョン期の最高作と言われる『キャラバンサライ』だが、個人的にはサンタナ全作の中でも、1、2を争うアルバムだと思っている。(といっても90年代以降のアルバムはあまりちゃんと聴いていませんが)。
‘69年のアルバムデビュー以来、早くも2nd、3rdという名盤を生み出したサンタナだが、この時期は、さらに表現への欲求も高まり、創造性も上昇していたのだろう。4thアルバムとなる本作では、スケールアップしたサウンドを聴くことができる。
録音メンバーには、後にジャーニーを結成する、ニール・ショーン、グレッグ・ローリーといった、いわゆる黄金期の面々が参加、カルロス・サンタナ自身が大きな影響を受けたマイルズ・ディビズ、ジョン・コルトレーンからのインスピレーションが色濃く反映されたことで、魅力ある楽曲と演奏が生まれたことが大きい。なるべくしてなった最高作と言っていい。
本作はインスト曲中心で、組曲のような構成になっている。明確なコンセプトがあるわけではないが、サウンドは全編同じトーンで貫かれている。
フュージョンっぽいとは言われるが、ダイレクトに表現されているわけではなく、ブルーズとアフロ・キューバンのハイブリッドというサンタナサウンドの基本形に融合されているといった方が正確だ。
そのため、それまでのこってりとしたラテンロック色は少し抑えられ、代わりにジャズやファンクのもたらすクールネスが際立っている。
インスト曲中心のため、サンタナサウンドの骨格である、ドラム、パーカッションのダイナミックなリズムはくっきりと表現され、その音空間の中をギターやキーボードが縦横無尽に駆け巡る様がよく伝わってくる。
幕開けこそ静かだが、徐々に熱気が立ち昇り、3曲目の「Look up」あたりからカルロス・サンタナのギターが加速、そのまま最初のクライマックス「All the love of the universe」へと突き進む。後半のたたみ込むようなギター、オルガンのソロが痛快だ。
ボサノバの法王、アントニオ・カルロス・ジョビンの「Stone flower」でいったん落ち着くが、ジャム風ナンバーも挟んで、最終曲「Every step of the way」へとなだれ込む。ドラマティックなオーケストレーションに彩られた大団円にふさわしい曲で、その迫力に圧倒される。なるべく大きな音で聴くといい。快感が倍増する。
ところで、このアルバムはマイルズ・ディビズの『スケッチ・オブ・スペイン』への返答といった解釈を何かで読んだ。言われてみれば、ラテンの官能と叙情性、劇的なカタルシスが耳に残るところが共通しているように思える。
特に「Every step of the way」と『スケッチ・オブ・スペイン』の最終曲「Solea」の感触はよく似ている。マイルズを敬愛していたカルロスのことだ。たぶん意識したのではないだろうか。
♪好きな曲
Look up(to see what’s coming down)
アフロ・キューバンのリズムと、推進力のあるカルロスのギターがカッコいいファンク。
Just in time to see the sun
数少ない歌モノの1曲。歌はカルロス。アルバムの中では最もロックっぽい。
Song of the wind
軽やかなジャズボッサのリズムに乗って、カルロスのギターがよく歌っている。
Vol.33 Hats The Blue Nile 1989
美しく端正、魔術のような音の空間、
比類なきエレクトロ・ポップの名作。
ハッツ/ザ・ブルー・ナイル
英国の至宝とよばれるグループが、手間ひまかけて磨き上げた宝石のような作品。名うてアーティストたちに愛された隠れた名盤。
神秘的な響きをもった名前のこのバンドは、プリファブ・スプラウトとともに英国の至宝と呼ばれたこともあったが、今や秘宝といった方がふさわしい。心配するほど寡作なのだ。
1983年にデビューして以来、2016年現在までに出したアルバムはたった4枚。最後のアルバムが2004年だから、もう12年も新作がない。メンバーのポール・ブキャナンのソロはリリースされたものの、解散しているのか、それとも休止しているのかもよく分からない。
デビュー作は習作という印象があるが、すでにスタイルはできあがっていた。この2ndアルバム『HATS』で、彼らはがぜん注目を集める。シングルもアルバムもヒットしていないにもかかわらずだ。
彼らをまっさきに見つけ、評価したのはミュージシャンや音楽評論家だ。ロビー・ロバートソンやピーター・ゲイブリエルは自身のアルバムに呼んだし、リッキー・リー・ジョーンズはジョイントツアーを行った。ロッド・スチュワートやアニー・レノックスは曲をカバーした。
日本で紹介されたときもそうで、高橋幸宏か鈴木慶一か、それとも他の方か、記憶があやふやなのだが、僕も著名なアーティストが絶賛していたのがきっかけで聴いた。
ブルー・ナイルのサウンドは独創的だ。分類すればエレクトロ・ポップだが、同時代に流行った音とは全く異なる。サウンドは美しく端正な佇まいをもっている。音数は少なく、ストリングスやブラスを思わせるシンセによるゆったりとした、静謐な音の空間といった感じだろうか。丁寧に作り込まれた工芸細工のようである。
そしてブキャナンの歌声だ。時に物憂げに、時に熱さを交えながら、詩を詠むように歌う。耳にすっと入り込み、感情のひだに沁み込んでくる。
曲作りにじっくり時間をかけるようで、『Hats』も前作から5年ぶり。スタイルは変わっていないが、前作と比べると楽曲もアレンジも録音も格段に向上している。霞のようなエレクトロニクスとアクースティックの響きがよい塩梅で表現されている。
とくに冒頭からの4曲は素晴らしい。聴いていると、意識の中に青い夜の帳が降りてきて、ファンタジックな世界が広がる。音の魔法とはこういうものだろうか。
この後、2枚のアルバムを出して長い沈黙に入っているわけだが、半ば新作をあきらめていたプリファブ・スプラウトだって長すぎる休止を終えて、新作を届けてくれたのだ。望みは捨てずに気長に待つ。もし、クラウドファンディングでアルバム制作費を募るなら、迷わず出したい。少額ですけど。
それにしても、スコットランドはアイルランドとともに素晴らしいミュージシャンの宝庫だ。80年代のネオアコや、90年代のギターポップで好きだなと思ったバンドは、たいていグラスゴー出身だ。なぜこうも温もりと冷たさ、叙情性と情熱を秘めたサウンドが生まれるのか不思議だ。
♪好きな曲
The downtown lights
ブキャナンのソウルフルな歌に触発されたのか、ロッド・スチュワート、アニー・レノックスもカバー。
Headlights on the parade
シンフォニックなシンセによる流麗なサウンドは感動的だ。
Over the hillside
アルバムの幕開けにふさわしい曲。静かに始まり、徐々に舞い上がっていく感じがよい。
Vol.32 MINUTE BY MINUTE THE DOOBIE BROTHERS 1978
ポップでメロウ、さわやかな
ブルー・アイド・ソウルの味わい。
ミニット・バイ・ミニット/ザ・ドゥービー・ブラザーズ
2曲のグラミー賞受賞シングルを含む、ウエスト・コースト・ロックの名盤。バンド史上、最も売れ、最も高い評価を得た。全米1位。
マリファナ兄弟という意味のドゥービー・ブラザーズには、2つの時代がある。ひとつは、豪放で切れの良いギターが印象的な<トム・ジョンストン時代>。もうひとつは、キーボード中心のメロウで洗練された<マイケル・マクドナルド時代>だ。
『ミニット・バイ・ミニット』は、マクドナルド時代>を代表するアルバムである。ドゥービーのファンにしてみれば、ジョンストン派VSマクドナルド派と分かれるところだろうが、それぞれ良さがある。
個人的には、ジョンストン時代では「Long train running」のある『キャプテン・アンド・ミー』が好きだし、マクドナルド時代ではこのアルバムだ。
その理由は、「What a fool believes」と「Minute by minute」という強力なナンバーがあるからだ。どちらも1979年のグラミー賞を受賞している。「What a fool believes」は、<最優秀レコード>、<最優秀ソング>、<最優秀アレンジメント>を受賞。
「Minute by minute」は、<最優秀ポップグループ>を受賞している。特に前者はマクドナルドとケニー・ロギンズが共作した名曲。あのキーボードのリフはちょっとした発明だし、流れるようなメロディも完璧だ。後者もマクドナルド作で、こちらもメロディが心地よく、ゆるやかなグルーブがいい。
この2曲が突出して素晴らしいので、他の曲の印象が少しかすんでしまうが、あらためて全曲通して聴くと、マクドナルドの持ち味である、ブルー・アイド・ソウル色が強いものの、もともとあった、パット・シモンズが得意なカントリーのテイストは健在だ。
それにタイラン・ポーターの黒いベースとダブルドラムが生むキレのあるリズムはファンキー。全体的にまろやかな雰囲気漂う、聴き心地のよい作品に仕上がっている。
洗練されたウエスト・コースト・ロックというと、スティーリー・ダンを思い浮かべてしまうが、それもそのはずでマクドナルドは、一時期スティーリー・ダンに在籍していたわけだし、マクドナルドをドゥービーに誘ったジェフ・バクスターも元スティリー・ダンだ。
中心人物であり看板ギタリストであったジョンストンが脱退した後に、違った音楽性を持つキーボード・プレイヤーのマクドナルドを誘って、特にもめることなく、がらりとサウンドを変えて、すんなりと活動したことは驚きである。
おおらかなのか、いい加減なのか、あるいはスティーリー・ダンみたいなロックをやりたかったのか、ともかくもくろみは成功したということだ。
4年後にドゥービーは解散した。同じ年にはイーグルスも解散。すでにスティーリー・ダンも、リトル・フィートも活動停止、解散しており、アメリカン・ロックが面白かった時代は、いったん終わった。
ふりかえると80年代、アメリカの音楽シーンは、マドンナやマイケル・ジャクソンなどスーパースターの活躍があったものの、英国のそれに比べると、つまらなかった。あくまで個人的な意見だけど。
♪ 好きな曲
What a fool believes
全米1位。共作者のケニー・ロギンズのバージョンもいいけど、やはりドゥービーの方が好み。
Minute by minute
全米14位。アクースティック・ギターで弾くラリー・カールトンのバージョンもなかなか。
How do the fools survive?
スティーリー・ダンのようなファンキーなロックナンバー。
Vol.31 WHO’S NEXT THE WHO 1971
初の1位を獲得、代表曲が並ぶ、
創造性と進化のピークを示した必聴作。
フーズ・ネクスト/ザ・フー
楽曲、パフォーマンスと、ザ・フーがもっとも創造性を発揮したアルバムであり、彼らの最高作といっていい。もちろん、ブリティッシュ・ロックの名盤だ。全英1位、全米4位。
今では、ファンも評論家も認める名盤であるが、メンバーのピート・タウンゼントは、当初このアルバムのことを嫌っていた。
「これは妥協したアルバムだ。当時、僕らが持っていた最高のものでできているけど、すべてが劇場用のプロジェクト、映画用のアイデアだ」と(でも、最高のものとは認めているね)。
そう言うのも分かる。なぜなら曰く付きのアルバムだからだ。ここに収められた楽曲は、もともとピートが考えたプロジェクト<ライフハウス>のために作られたものであった。
<ライフハウス>とは、風変わりなストーリーを持った、映画、演劇、オペラのようなものだったらしい。しかし、プロジェクトは結局頓挫してしまった。そこで共同プロデューサー兼エンジニアのグリン・ジョンズ(レッド・ゼッペリン、ローリング・ストーンズ、スモール・フェイセスなどの作品を手がけた)が、コンセプトなど持たせずに曲の寄せ集めでアルバムを作ろうと進言して完成させた。
コンセプトのしばりがなくなったおかげで、楽曲のクオリティ優先で選ばれたのだろう。『フーズ・ネクスト』は、「Baba O’riely」、「Won’t get fooled again」「Behind blue eyes」といった、ザ・フーの代表曲(ロック・クラシックスでもある)を含む、充実した内容となった。全楽曲よく作り込まれている印象が強く、埋め草的な曲がない。
ほぼ全曲を書いたピートのソングライティングは冴えわたっており、シンセサイザーやシーケンサーの使いかたのセンスも、この時代にしては進んでいる。
演奏もすばらしく、とくにロジャー・ダルトリーの歌声は表現豊かで、繊細な表情を見せてくれる。こんなに上手い人だったっけと驚いたくらいだ。
ザ・フーは、ハードロックで分類されることが多いが、レッド・ゼッペリンやディープ・パープルと比べると、ずいぶんとソフトでライトである。そのへんが個人的に気に入っているが、反対に本国ほど、日本で人気がないのはそこが原因かもしれない。
このアルバムでも、ちょっとハードなロックンロールナンバーはあるが、全体的には、軽快でメロディやアレンジが際立っている印象が強い。
個人的には「Song is over」、「Getting in tune」(両方とも、ゲストのニッキー・ホプキンスのピアノがいい)といった、のどかな趣きの、少し複雑な展開を見せる曲は気に入っている。
ところで、アルバムのジャケットの写真だが、なぜモニュメントのような巨石に立ちションなのか。何か意味が込められているのかと思ったが、特にないようで、メンバーも何も説明していない。当初は太った裸の女性を使った案を考えていたらしい。こういう不遜なところは、やはりザ・フーらしい。
♪好きな曲
Baba O’riley
ミニマルなシンセのフレーズとヴァイオリンが印象的な高揚感あふれる曲。米国TVドラマ「CSI:ニューヨーク」のオープニング曲。
Won’t get fooled again
邦題は「無法の世界」。シングルカットされ全英9位、全米15位。アルバムは8分半のロングバージョン。米国TVドラマ「CSI:マイアミ」のオープニング曲。
The song is over
ライブでは演奏されなかった(らしい)曲。後半にかけての盛り上がりが素晴らしい。
Vol.30 OFF THE WALL Michael Jackson 1979
名曲、佳曲そろった、元気はつらつ、
楽しさいっぱいのソウル。
オフ・ザ・ウォール/マイケル・ジャクソン
全米シングルチャートトップ10に4曲を送り込んだ傑作、マイケルの実質ファーストソロであり、その後の成功のきっかけとなった作品である。全米3位。
ふり返れば、マイケルにとって最後のソウルアルバムとなった。次作のモンスターアルバム『スリラー』以降は、ソウルの枠を超えて、ロック、ポップスとの融合が図られていく、つまりキング・オブ・ポップへの道へと歩んでいくわけで、その分、ソウルの黒さやしなやかさは中和されていく。
しかし、『オフ・ザ・ウォール』はソウル成分の濃いアルバムだ。ディスコもあり、メロウもありと、この時代らしいブラックミュージックとなっている。きらびやかで楽しさがつまったソウルを味わうことができる。
『オフ・ザ・ウォール』は、ソロアルバムとしては5作目だが、実質的にはファーストソロのようなポジションで扱われることが多い。なぜなら、前作までは主導権はレーベルのモータウンにあったこともあり、マイケルがやりたいことをやれたわけではなかった。
しかしこのアルバムからは部分的にプロデュースも行っており、はじめてやりたいことができた。それが関係していたからなのか、はつらつとした雰囲気に仕上がっている。ジャケットのマイケルもにっこり、笑顔のマイケルなんて、これ以降のアルバムでは見かけない。
プロデュースはクインシー・ジョーンズ。70年代のクインシーはソウルとジャズを一緒にしたような、フュージョン、イージーリスニング中心の傑作アルバムをA&Mから出していた。そのあたりの洗練されたアレンジがここでも発揮されている。
楽曲はダンサンブルでポップな曲、メロウなAOR調の曲など聴いていると楽しくなるものばかり。4曲の全米トップ10シングル(そのうち全米1位が2曲)を出したのも納得できる。
注目曲は、マイケルが作詞作曲をてがけた「Don’t stop till you get enough」。軽快なディスコナンバーでマイケルのファルセットは冴え、独特の節回しでノリノリに歌う。同じくシングルヒットした「Rock with you」、「Off the wall」もメロディとグルーブが気持ちよく、いまではソウルの名曲だ。
シングル曲以外も粒ぞろい。スティービー・ワンダー提供の「I can help it」、デヴィッド・フォスター&キャロル・べイヤー・セイガーといったヒットメイカー作の「It’s the falling in love」も、ポール・マッカートニーがマイケルのために書いた「Girlfriend」(ポールのバージョンは『London Town』に収録)もキュートだ。いずれもシングルカットされたらヒットしていたかもしれない出来ばえだ。
個人的にはマイケルへの関心は『スリラー』あたりまで。ジャクソン5時代を除けば、マイケルは『Off The Wall』1枚で十分だ。マイケルにしても『スリラー』以降、世界的スターにはなったが、トラブル続きで徐々にキワモノ扱いされていく。
それだけに『Off The Wall』でのイノセンスな輝きがいっそう際立つ。マイケルに興味が無くても、70年代ソウルの名盤として聴いてもらえるとうれしい。
♪好きな曲
Don’t stop till you get enough
全米1位、グラミー賞最優秀R&B男性ヴォーカル賞受賞。アレンジもさえている。
Rock with you
全米1位、一晩中、君とロックしたいという他愛もない歌だが、メロディがとてもいい。
It’s the falling in love
パティ・オースティンとデュエット。こういうメロウなポップスも似合う。