Vol.10 Aja STEELY DAN 1977
一流どころの名人芸が織り込まれた、
贅を尽くして創られたハイブリッド・ロック。
彩(エイジャ)/スティーリー・ダン
当代一流のミュージシャンを大勢集め、名人芸を引き出し、ロック、ジャズ、ソウルをハイブリッド化。洗練の極みともいえるサウンドを実現したスティーリー・ダンの最高傑作。全米3位、1年以上もチャートイン、プラチナディスクに輝いた名盤である。
この時、すでにスティーリー・ダンはバンドではなく、ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーとプロデューサーのゲイリー・カッツ、エンジニアのロジャー・二コルズのレコーディングユニットになっていた。
バンド時代からゲスト・ミュージシャンを多く起用していたが、アルバムを出す度にその傾向は強くなり、メンバーの脱退が重なって以降、理想の音楽を実現するためのユニットとなっていった。
前作『幻想の摩天楼:The Royal Scam』では、ラリー・カールトン、チャック・レイニー、バーナード・パーディなどジャズ、フュージョン、ソウル畑の一流ミュージシャンをゲストに迎え、ロック、ジャズ、ソウルをハイブリッド化、美学を感じさせるサウンドを創り上げた。
この方法を究めたのが『Aja』だ。前出のミュージシャンに加えて、ウェイン・ショーター、スティーブ・ガット、トム・スコット、ジョー・サンプルなど大物をずらりと招いて1年間かけてレコーディング、スティーリー・ダン以外では不可能なサウンドを実現した。
全体の印象はAORのような大人好みの洗練されたロックだ。だが、何度も聴きこんだり、耳が肥えてきたりすると、構築美ともいえる緻密な、ある意味変態的ともいえる音づくりが見えてくる(聴き心地がよいため、そこに気づきにくい)。
ソウルやファンクのリズムに、ジャズを感じさせるコード展開というのが、彼らが好むスタイルだ。ただ混ぜ方が巧みで、それぞれの味わいが絶妙にシェイクされ、オリジナリティの強さが際立つところがユニークだ。
楽曲やアレンジともに練り込まれていて緻密である。にもかかわらず圧迫感はなく、ノリの良い開放的な音が繰り広げられる。これはもう創造性とセンスというしかない。
さらに面白いのはゲスト・ミュージシャンの芸を最大限に引き出している点である。人によっては一世一代ともいえる演奏をさせている。たとえば「Aja」のガットのドラムソロとショーターのサックスソロ。鳥肌モノのパフォーマンスだ。
その他、ほぼ全曲で演奏しているレイニーのベース。スコットのサックスやホーンアレンジなどミュージシャンに本気を出させているおかげで豊潤な音を味わうことができる。人も金も時間も、贅をつくしただけのクオリティを見事に実現している。この時代だから許されたと言っていい。その意味で稀なるアルバムだと思う。
なお、ジャケットの女性は、世界的なファッションモデルとして活躍した山口小夜子である。音だけでなく、デザインもしっかり贅沢しているところが彼ららしい。
♪好きな曲
Black Cow
アルバム中で一番好きな曲。ハンフリー×レイニーのファンクビートが気持ちよく、ホーンも女性コーラスの使い方も素晴らしい。
Aja
8分の組曲。中盤の寄せては返すインストパートはアルバム最大の聴きどころ。宙に舞うように乱打されるドラムは圧巻。
I Got The News
モータウンの白人ドラマー、エド・グリーンとピアノによる弾力あるリズムがカッコいい。