Vol.14 Sweet Baby James James Taylor 1970
シンガーソングライター時代の
始まりを告げた、やすらぎと癒しの歌。
スウィート・ベイビー・ジェイムズ/ジェイムズ・テイラー
それまでのフォークとは異なる、新しいスタイルのシンガーソングライター像を決定づけた男、ジェイムズ・テイラー。自らの体験を色濃く反映させたアルバムは、当時、疲弊した人々に救いと共感をもたらし、心をいやした。全米3位、優しさあふれる名盤だ。
1970年頃、アメリカで起きたシンガーソングライターのブームは、必然的なものであった。’60年代、アメリカの社会は反戦運動、公民権運動、女性解放運動、カウンターカルチャーといった大きなムーブメントに揺れ動かされ、価値観もまた大きな揺れの真っただ中にあった。理想と現実、夢と挫折に振り回され、人々の心は疲れきっていた。
当時の音楽シーンはというと、ビートルズは解散し、ジミ・ヘンドリックスも、ジャニス・ジョップリンもジム・モリソンもドラッグで命を落とした。人々は夢を失い、歌に変革ではなく、やすらぎと癒しを求めるようになる。
そうした渇望に応えたのが、ジョニ・ミッチェルやニール・ヤングなどのシンガーソングライターたちであり、その先鞭をつけたのが、ジェイムズ・テイラー(以下、JT)のソロ2作目『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』だった。
アルバムはじわじわと評価を得て大ヒット。シングル「Fire and Rain」も全米3位を獲得し、大きな注目を集めた。
そこで歌われているのは、孤独や疎外感からの救い、再生への祈りである。ソロデビュー作の失敗、ドラッグ中毒、友人の死などJTの個人的な挫折や体験から生まれた内省やラブソングに多くの人が共感した。そして、それは他のシンガーソングライターたちにも共通することであった。
JTの場合はサウンドも独特であった。さらりと聞き流せば、明るく牧歌的なアクースティックなサウンドだ。しかし、シンコペーションが絶妙なギターや洗練されたコードによって、雰囲気は都会的だ。少年時代やアマチュア時代にクラシックやジャズを学んだJTの音楽的素養によるものだ。
でも一番の魅力は、JTの声。父性的な優しさを含んだテナーボイスにやすらぎを感じずにはいられない。’71年に「You’ve Got A Friend」で全米1位、グラミー賞を獲得するわけだが、僕はキャロル・キングのオリジナルよりも、ヴォーカルの温もりという点でJTの方が好きだ。
バックは盟友ダニー・クーチマー、ラス・カンケル、キャロル・キングが中心となって務めた。特にラスのドラムとキャロルのピアノは音に彩りを添えている。
はっぴいえんどの「風をあつめて」、「夏なんです」を聴いた時、ああ、JTだなぁと思っていたら、この曲を作った細野晴臣は、後のインタビューで「僕はJTといえば、『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』があればいいんだ。とにかくこのアルバムにはトータルで影響されたね。特に生ギターの奏法をね」と語っていた。
近年はマイペースで活動しているJT、今ではすっかり禿げあがってしまったけれど、素敵な声とギターはちっとも変っていない。これも世界音楽遺産にしたい。
♪好きな曲
Fire and Rain
炎もくぐり抜けたし、雨にも打たれたと苦悩と救いについて切々と歌う。JTの代表曲。
Sunny Skies
地味で小品だが、ギターによるコードとリズムがなんとも心地よい、ほのぼのとした曲。
Blossom
Blossomは花ではなく、愛しい人のこと。可愛いらしい、やさしいメロディがいい。