Vol.15 The First Of A Million Kiss Fairground Attraction 1988
古いジャズやトラッドの香り漂わせ、
魔法のようでもあり、ロマンティック。
ファースト・キッス/フェアグラウンド・アトラクション
きらびやかなロックやポップス全盛の’80年代後半、素朴だけれど、ルーツ音楽の美しい香りを漂わせるバンドがいた。彼らはたった1枚の素敵なアルバムを残して消えていった。異世界に誘い込むようなロマンティックな趣きは魔法のようでもある。
’87年に結成、’90年1月に解散した4人組のフェアグラウンド・アトラクション。意味は「移動遊園地の出し物」である。彼らは、その名のとおり、カーニバルの演目のように賑やかに現れ、それが終わると儚さを残して、あっさりと去っていった。
そのサウンドは移動遊園地の出し物に似合いそうな、古いジャズやトラッド・フォークなどルーツ音楽からの影響がうかがわれるアクースティックなサウンド。そのせいか、ノスタルジーを感じさせるところがあるが、モダンなアレンジやコードのせいもあって、セピア色の古臭さはなく、カラフルな感じさえする。
そこにエディ・リーダーの艶のあるみずみずしい歌声が重なると、魔法にかかったように聴き入ってしまう。彼女の声なしにフェアグラウンド・アトラクションは成り立たない。曲を書いているのは、ギターのマーク・E・ネヴィン(1曲のみエディ)。
ほとんどの曲が女性の気持ちを歌ったものなので、歌詞はエディかと思ったが、マークが書いていたことをけっこう後になって知って驚いたものだ。
百万回のキスのファースト・キスというアルバム原題や曲名もそうだが、歌詞に夜空、星、月という言葉が多く登場することもあって、アルバムに漂うのはロマンティックな雰囲気だ。夜に聴くのが似合う音楽だ。
シングル「パーフェクト」は全英1位、アルバムも全英1位。’88年のブリット・アウォードでも前者が最優秀シングル、後者が最優秀アルバムを受賞した。オリジナル・アルバムはこれ1枚きりだが、解散後に未発表曲などを集めた編集盤やライブ盤が出ている。
アルバムジャケットに使われている写真は、1955年にカリフォルニアで写真家エリオット・アーウィット(写真家集団マグナム・フォトのメンバー)が撮ったもの。
僕はこの写真で、アーウィットに興味を持って「幸福の素顔」という写真集を買った。演出されたもの、偶然の一瞬をおさめたもの、いろいろあるがそれらの多くは日常にひょいと顔を出す、ユーモアを切り取った写真で、思わずにやりとしてしまう。
解散後、エディもマークもソロ活動を始めた。エディのソロは、よりコンテンポラリーなサウンドになっていたし、マークの方が、フェアグラウンドに近いものの、ヴォーカルがエディではない分、あの雰囲気とは異なる。やはり、マークの曲とエディの歌声があってのフェアグラウンドなのだ。
2作目、3作目を聴きたかった気もするが、移動遊園地の出し物のように、刹那ではあるが、二度とないかもしれない素敵な邂逅という印象もあって、この1枚でも十分だと今は思う。
♪好きな曲
Perfect
人気に火をつけた先行シングル。弾むような明るいメロディで燃えない不倫なんてごめんだわと歌う。
The Moon Is Mine
古いジャズナンバーを思わせる。弾けるようなノリノリのヴォーカルがいい。
Allelujah
個人的に1番好き。百万回のキスのファースト・キスはここからのフレーズ。編集盤にあるライブバージョンはもっと感動的。