若い人のための洋楽ロック&ポップス名盤案内

やがて聴かれなくなるかもしれない'60~'80の海外ロックやポップスの傑作(個人的な意見)を紹介します。

Vol.17 Close To The Edge YES 1972

曲、パフォーマンス、すべてが完璧。

バンドが絶頂を究めた大傑作。

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危機/イエス

 好き嫌いは別にして、『危機』はパーフェクトなアルバムだ。楽曲、演奏、アートワークも含めたアイデアすべてがこれ以上、足すものがないくらい素晴らしい。プログレッシブ・ロックというカテゴリーだけで語られるには、たいへんもったいない大傑作である。

 

 バンドの黄金時代に君臨した最高傑作であり、ロックアルバム屈指の名盤といっていい。全米3位、全英4位と大ヒット。難解な歌詞や長い曲、しかも踊れないし。そんなアルバムが売れた。

 

 初の全米1位のシングル「ロンリーハート」をおさめ、世界的にヒットした、1983年の『90125』でさえ、全米5位、全英16位というのに。

 

 イエスというと、ジョン・アンダースンの澄み切ったハイトーンの歌声、クリス・スクワイアの自己主張の強いベースを核とした鉄壁のリズム、変幻自在に駆け巡るスティーブ・ハウのギターである。そこに派手でやや大げさな、リック・ウェイクマンのキーボードやコーラスワークが彩りを添える。『危機』では、それらいずれもが高い完成度で展開される。

 

 前作、前々作から、複雑な組曲形式の長尺曲に挑んできたイエスだが、5作目の『危機』でそれが結実した。全3曲、18分の「危機(Close to the edge)」、10分の「同志(And You and I)」、8分の「シベリアン・カートゥル」と長いのばっかり。

 

 長い曲というのは、出来ばえや展開がいまいちだと退屈してしまうものだが、この3曲はまったく長さが気にならない。いずれも印象的なメロディやフレーズ、緻密なアレンジ、緩急のある展開が施された構築美ともいえるサウンドは聴き飽きることがない。スリル、スピード、スぺクタクルがあるのだ。

 

 ただ、ヘルマン・ヘッセの『シッタルーダ』からインスパイアされたという「危機」の歌詞は、とても抽象的で読み解くのは難しい。他の2曲も同様だ。なんでこんな小難しい内容のものが全米3位になるのか。当時買った人は、何を期待していたのか、そもそも理解できたのか聞いてみたいものだ。

 

 ところでイエスの長尺曲は、構築美というには、ぎこちなく、無理やりつなげたという感のある展開が特長だ。クリス・スクワイアによると、断片的な曲を録って、テープ編集でつなげたこともあったという。所々で強引と言える展開はその影響かもしれない。

 

 だがテクニシャン揃いの彼らがやると、これ以上やると空中分解してしまう、失速ギリギリのアンサンブルが実現される(ライブではほぼスタジオ盤どおりに演奏される)。それが、かえってスリルを生み出し、聴く方としてはカタルシスのようなものさえ感じることがある。

 

 イエスが一番面白かったのは、『危機』の前作‘72年の『こわれもの』から、‘77年の『究極』あたりまで(‘74年の『海洋地形学の物語』はややスピードやスリルに欠ける)。個人的には『危機』をほうふつさせる‘74年の『リレイヤー』が好きだ。よりシャープでアグレッシブなサウンドがカッコいい。

 

♪好きな曲

といっても全3曲しかない…)

 

Close To The Edge

4部構成の組曲。緊張感みなぎる演奏、精密なモザイクのようなサウンド、あっという間の18分。

 

 

 

 

And You And I

イントロのギターのチューニング音がいい。牧歌的でシンフォニックなイエスらしい曲。

 

 

 

Siberian Khatru

サビが童謡「アルプス一万尺」に似ている。当時はライブではオープニングナンバーだった。

 

 

Siberian Khatru

Siberian Khatru