Vol.18 Silk Degrees Boz Scaggs 1976
ソウルをまろやかな甘さで包み、ロックで
仕上げた都会的なブルー・アイド・ソウル。
シルク・ディグリーズ/ボズ・スキャッグス
70年代のブルー・アイド・ソウルの名盤だ。ソウルやアメリカ南部R&Bの渋味を、まろやかな甘さで包み、ロックのスタイルで表現した、都会的なアダルト・コンテンポラリー・サウンド。ボズの6枚目のアルバムにして出世作、ダブルプラチナ・ディスク、全米2位と大ヒットした。
ボズ・スキャッグスは面白い音楽性の持ち主だなと思う。筋金入りのブラックミュージックやR&Bフリークにもかかわらず、それらの音楽の魅力ともいえる渋味や土臭さといった灰汁をストレートに出したがらない。
ヴォーカルも、ソウルフル、たとえばジョン・コッカーやロバート・パーマーのような迫力あるスタイルではない。声も歌い方もマイルドだ。
アルバムを出す度にサウンドは、徐々に渋味が消え、まろやかさや甘みが増していった。泥臭くない都会的な、ところどころキラキラした大人向けのロックへと洗練されていった。もっともそれは白人によるソウルというブルー・アイド・ソウルの特徴でもあるのだが。
日本ではボズといえば、「We’re All Alone」、「Harbor Light」という美しいメロデイのバラードを歌っているポップス歌手という印象だが、本質は都会的なセンスを持つブルー・アイド・ソウルのアーティストだ。そんな彼の資質が大きく実ったのがこの『Silk Degrees』である。
アレンジャーと共作にディヴィッド・ペイチに迎え、ジェフ・ポーカロとディヴィド・ハンゲイトなど手練れを迎えて仕上げたサウンドは、うっすらと南部サウンドの香りを残しつつも、きらびやかでファンキーな雰囲気を持ち、とても耳に心地よい。特にペイチの洗練されたアレンジ、ポーカロの跳ねるドラムはアルバムの印象を決定づけている。(この2年後に彼らはTOTOを結成)
楽曲も粒ぞろいで、なかでもファンクナンバー「Lowdown」はアルバムを代表する曲であり、ブルー・アイド・ソウルのスタンダードである。この時期、ディスコ・サウンドの席巻もあって、それを意識したに違いないアレンジも特徴だ。この曲はシングルカットされ大ヒット。全米3位、グラミー賞最優秀R&B楽曲賞を受賞した。
ボズが人気の頃、やれ軟弱だ、これはロックじゃないと、ロック好きからはけっこうこき下ろされていたが、たまに聴くとポップでグルーブな雰囲気が気持ちいい。先入観で聴かないのは損だ。
次作『Down To The Left』は、さらに洗練さが増し、磨きのかかったブルー・アイド・ソウルの名盤となった。その次の『Middle Man』あたりまでが全盛期。それ以降は、マイペースでアルバム制作やライブを行っている。
2013年、久しぶりに『Memphis』をリリース。R&Bクラシック・ナンバーとオリジナルで構成されており、メンフィスで手練れのミュージシャンと録音されたそのサウンドは、渋さとまろやかさの絶妙な塩梅が素晴らしく、全米17位と好調。ボズの第2の全盛期を予感させる傑作だった。当時、毎日聴くほど気に入っていた。
♪好きな曲
Lowdown
曲自体がカッコいいが、キーボード、ギター、ストリングスによるアレンジが魅力を増幅させている。
Lido Shuffle
爽快なシャフッルビートの効いた曲、シングルカットされ全米11位とヒットした。
We’re All Alone
あまり言われないが、ボズのソングライティングの能力は高い。シングルカットされていないが人気の高い曲。もちろん作者はボズ。