Vol.22 Gonna Take A Miracle Laura Nyro and LABELLE 1971
甘美でエモーショナル、歌う歓びに
あふれた珠玉のソウルカバー集。
ゴナ・テイク・ア・ミラクル/ローラ・ニーロ&ラベル
自作曲で勝負するシンガーソングライターが、シンガーに徹した全曲カバーのアルバムが一番なんて、失礼な気もするが、ローラ・ニーロのファンであればあるほど、このアルバムが一番好きなのではないかと密かに思っている。
なにしろ、すべてが素晴らしい。ローラの歌声は甘美でエモーショナル。サウンドもロマンティックだ。全米46位、シングルも103位とチャートこそ、いまひとつ振るわなかったが、長く愛さずにはいられない気を起こさせる。
ローラは、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルと同時代に活躍した女性シンガーソングライターである。1967年、19歳でデビュー。早熟の天才肌ではあるが、他の二人に比べると、誰もが知っている有名曲、ヒットアルバムがないために、一般的には知名度は低い。
とは言え、68年から70年初期にかけて、彼女の曲はフィフス・ディメンションやブラッド・スエット&ティアーズといった当時の人気アーティストに数多く取り上げられた。大ヒットしたものもあり、ソングライターとしての活躍は申し分ない。
このアルバムでカバーされた曲は、今から見れば、ソウルの名曲ばかり。ローラが少女時代、ブロンクスやマンハッタンのストリートで友人たちと歌っていた、お気に入りの曲も入っているようだ。
「その部屋にピアノが置いてあったとしたら、わたしはピアノの前に座り、あのアルバムに収められている曲を歌いだすと思う。それくらい好きな曲ばかりなの」と『ゴナ・テイク・ミラクル』について聞かれたインタビューで語っていたくらいだ。そのせいか、歌の録音はすべてワンテイクでOKだった。
冒頭の軽快なアカペラから、甘美なバラード「The Bells」へのくだりで心をつかまれ、いつのまにか引き寄せられてしまう。バラード、アップテンポのナンバー、アカペラがほどよく散りばめられており、楽しく穏やかな聴き心地のするアルバムだ。
そうした雰囲気は、プロデューサーのケニー・ギャンブルとレオン・ハフ、アレンジャーのトム・ベルによるものが大きい。彼らは数年後に、スイートなソウルがトレードマークの洗練されたフィリー・サウンド(フィラデルフィア・ソウル)のムーブメントを作るチームである。
ところで、このアルバムはローラ単独ではなく、ラベルと共同になっている。ラベルは、60年代から人気のガールズグループである。彼女たちの時に力強く、時にエレガントなコーラスがローラの声に寄り添い、サウンドを決定づけている。
きっとローラは自分ひとりではなく、ラベルと一緒に歌うことで、ローラ&ラベルというガールズグループのつもりで歌い楽しんだのではないかと思う。少女の頃に戻ったような気持ちで、大好きな歌を、大好きな仲間たちと歌うことができた。『ゴナ・テイク・ミラクル』は、そんな歓びがいっぱいにつまっている名盤だ。
♪好きな曲
The Bells
オリジナルズが70年にヒットさせた美しいバラード。作者の1人がマービン・ゲイ。ローラは表現豊かに歌う。
Jimmy Mack
マーサ&ヴァンデラスの67年のヒット曲。軽快に弾むローラの歌声とピアノに思わず手拍子をしたくなる。
It’s Gonna Take A Miracle
ロイヤレッツ、1965年のヒット曲。歌われるのは別れた恋人への未練と恨みだが、そうは思えないほど、ロマンティックな雰囲気。