Vol.26 Lark’s Tongues in Aspic King Crimson 1973
即興性を取り込んだ、新たな方向性は
攻撃的でダイナミック。
太陽と戦慄/キング・クリムゾン
前衛音楽のようなアプローチを編み込んだ、複雑に構築されたサウンドが展開。重量感とダイナミックさを従えたジャズ・ロックに近いスタイルでクリムゾンは生まれ変わった。
クリムゾンで一番好きなアルバムは、『レッド』ではあるが、アルバムごと一番多く聴くのは『太陽と戦慄』だ。はじめはとっつきにくかったが、ロックらしいアグレッシブさと、先鋭的なジャズ的な要素がいい按配で、意外に聴き疲れないのが理由だ。
長尺のインストナンバーと歌もの、それぞれ3曲ずつの構成だが、それまでクリムゾンの持ち味であった叙情性は後退している。代わりに全編ドライなタッチで攻撃的なサウンドが目立っている。聴きどころはやはり「太陽と戦慄」パート1とパート2だろう。
メンバーは前作時とは、ロバート・フリップ以外すべて交替したが、演奏の質は格段に強化された。
ジョン・ウェットンとビル・ブルフォードが打ち出す強靭なリズムと、フリップのヘビーなカッティングが紡ぎだすエッジの効いた空間に、ジェイミー・ミューアの神出鬼没なパーカッションが舞い、デイビッド・クロスのヴァイオリンが緊迫感を添えるという、実にスリリングなアンサンブルが実現した。
楽曲の大半は、緻密に構築されてはいるが、即興的なアクセントがほどよいさじ加減で加えられている。整理されているぶん、だらけたソロパートがなく、長尺ナンバーでも引き締まっているので聴きづらくはないし、意外に時代がかっていない。
また、全体的にヘビーな印象があるものの、「土曜日の本」、「放浪者」という叙情性をもった歌ものがいい箸休めになっており、重さがもたれないのもいい。
ただし、はじめてのクリムゾンには適しているとは言えない。やはり、歴史的名盤『クリムゾン・キングの宮殿』から聴くのが良い。
新メンバーによる新しい方向性でスタートしたクリムゾンだったが、サウンドの要を担っていたミューアが脱退したので、次作以降は違ったサウンドになったものの、構築と即興のアンサンブルは受け継がれていく。
全米61位、全英20位とチャートでは比較にならないが、このアルバムでようやくフリップは、『クリムゾン・キングの宮殿』(全米28位、全英5位)の重石から解放され、次へと進める確信が持てたのではないか。
ところで邦題『太陽と戦慄』は、原題(ゼリーの中のひばりの舌:古代ローマで人気のあったらしい料理)の意味とは全く違う。日本のレコード会社の担当ディレクターがジャケットのデザインを眺めて、直感で名付けたとのこと。
もっとも、思わせぶりな原題もなんとなく思いついたものらしい。しかし、原題、邦題ともに、コンセプチュアルなアルバムと思わせてしまう説得力があるのも事実で、実に面白い。
♪好きな曲
Lark’s Tongues in Aspic Part2
地鳴りを響かせながら大軍が押し寄せるようなアグレッシブなインスト。ライブの定番で、クリムゾンの代表曲。ポルノ映画「エマニエル夫人」のサントラで盗用され裁判沙汰になった。実際に聴いた時、あまりにそっくりで笑った。
Lark’s Tongues in Aspic Part1
アルバムの雰囲気を最も表したインスト。13分と長尺だが、スリリングな展開が次々と繰り出される。
Easy Money
歌ものだが、中間の長いインスト部分は、ミューアやフリップのさえた即興を聴くことができる。トヨタの国内のCMで使われた。