Vol.28 The Joshua Tree U2 1987
アメリカ音楽への憧憬がもたらした、
深みと多様性。名盤にふさわしい風格。
ヨシュア・ツリー/U2
U2がひとつの高みへと到達したことを告げたアルバムだ。アメリカのルーツミュージックへの憧憬から生まれた多様性と深み。はじめから名盤が約束されたような風格が漂っている。全米1位(9週間連続)、全英1位、’88年のグラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤー受賞作。
U2が本領を発揮し、並のロックバンドではないことを示すのは90年代からだ。それでも『ヨシュア・ツリー』は、出世作『WAR』にあったアイリッシュとしてのアイデンティ、むき出しの熱さ、青臭さがほどよく抑えられ、百戦錬磨のバンドのような渋味さえも漂う作風となった。
音楽性に深みが加わり、楽曲は多彩さを増し、スケールも大きくなった。おかげで代表曲にふさわしい曲がずらりと揃った。その理由は2つ。ひとつはR&B、カントリー、ゴスペル、ロックンロールなどアメリカのルーツミュージックからの影響である。
面白いことに、U2のメンバーはそれまで、アイルランドやアメリカのルーツミュージックに興味がなかったという。ところが、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンなどとの交流から、アメリカ音楽の奥深さにひかれていくようになり、曲づくりに反映させた。
ふたつめはプロデュースだ。前作に引き続きブライアン・イーノとダニエル・ラノワが起用された。前作『焔(ほのお)』で創り上げた、アンビエントやミニマル・ミュージック的なデザインが施された音空間は、今作でみごとに曲と溶け合いサウンドカラーを決定づけている。
斬新な音響によって、U2のまっすぐな熱さ(時として聴き手を疲れさせる)がコーティングされ、静謐と情熱が絶妙に交じり合ったサウンドが生まれた。
聴きどころは前半だ。冒頭からの4曲の流れが素晴らしい。オープニングの高揚感が持続され、早くもクライマックスを迎える。いずれもライブでは、オープニングや終盤を盛り上げる、とっておきの曲だ。以前、東京ドームで観たライブでも、終盤の「Bullet the blue sky」、「Where the streets have no name」には鳥肌が立ったものだ。
後半は前半と比べれば少々地味だが、ギターリフが心地よいグルーブを生む「One tree hill」や、初期のサウンドを思わせる「In god country」など粒ぞろいだ。
ジ・エッジのギターもさらに進化している。細かなカッティングは打楽器のように強烈だし、アルペジオからのフレーズはディレイなどエフェクターの駆使によって、浮遊感のある響きをもたらしている。バリバリとソロを弾くタイプではないが、革新性をもたらした名ギタリストだと思う。
アメリカ音楽への旅は次作『魂の叫び』で一応終わる。次なる巡礼の地はヨーロッパ。U2は『アクトン・ベイビー』をベルリンで録音、エレクトロニックなダンスビートをまとった新しいサウンドを披露した。アイデンティティをめざして、アメリカ、ヨーロッパへ移っていく様は、デイヴィッド・ボウイの辿った道と同じで面白い。
♪好きな曲
Where the streets have no name
荘厳なイントロから疾走感ある展開が素晴らしい。2002年のスーパーボウルでの演奏は感動的だった。
I still haven’t found what I’m looking for
邦題「終わりなき旅」。分かりすく親しみやすい曲で、シングルカットされ全米1位。
With or without you
穏やかな始まりから、徐々にエモーショナルになって聴き手を鎮めるように終わる。なんてカッコいい展開。シングル第2弾で全米1位。