若い人のための洋楽ロック&ポップス名盤案内

やがて聴かれなくなるかもしれない'60~'80の海外ロックやポップスの傑作(個人的な意見)を紹介します。

Vol.28 The Joshua Tree U2 1987

アメリカ音楽への憧憬がもたらした、

深みと多様性。名盤にふさわしい風格。

f:id:arikenunited:20160313102918j:plain

ヨシュア・ツリー/U2

 U2がひとつの高みへと到達したことを告げたアルバムだ。アメリカのルーツミュージックへの憧憬から生まれた多様性と深み。はじめから名盤が約束されたような風格が漂っている。全米1位(9週間連続)、全英1位、’88年のグラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤー受賞作。

 

 U2が本領を発揮し、並のロックバンドではないことを示すのは90年代からだ。それでも『ヨシュア・ツリー』は、出世作『WAR』にあったアイリッシュとしてのアイデンティ、むき出しの熱さ、青臭さがほどよく抑えられ、百戦錬磨のバンドのような渋味さえも漂う作風となった。

 

 音楽性に深みが加わり、楽曲は多彩さを増し、スケールも大きくなった。おかげで代表曲にふさわしい曲がずらりと揃った。その理由は2つ。ひとつはR&B、カントリー、ゴスペル、ロックンロールなどアメリカのルーツミュージックからの影響である。

 

 面白いことに、U2のメンバーはそれまで、アイルランドアメリカのルーツミュージックに興味がなかったという。ところが、ボブ・ディランブルース・スプリングスティーンなどとの交流から、アメリカ音楽の奥深さにひかれていくようになり、曲づくりに反映させた。

 

 ふたつめはプロデュースだ。前作に引き続きブライアン・イーノとダニエル・ラノワが起用された。前作『焔(ほのお)』で創り上げた、アンビエントミニマル・ミュージック的なデザインが施された音空間は、今作でみごとに曲と溶け合いサウンドカラーを決定づけている。

 

 斬新な音響によって、U2のまっすぐな熱さ(時として聴き手を疲れさせる)がコーティングされ、静謐と情熱が絶妙に交じり合ったサウンドが生まれた。

 

 聴きどころは前半だ。冒頭からの4曲の流れが素晴らしい。オープニングの高揚感が持続され、早くもクライマックスを迎える。いずれもライブでは、オープニングや終盤を盛り上げる、とっておきの曲だ。以前、東京ドームで観たライブでも、終盤の「Bullet the blue sky」、「Where the streets have no name」には鳥肌が立ったものだ。

 

 後半は前半と比べれば少々地味だが、ギターリフが心地よいグルーブを生む「One tree hill」や、初期のサウンドを思わせる「In god country」など粒ぞろいだ。

 

 ジ・エッジのギターもさらに進化している。細かなカッティングは打楽器のように強烈だし、アルペジオからのフレーズはディレイなどエフェクターの駆使によって、浮遊感のある響きをもたらしている。バリバリとソロを弾くタイプではないが、革新性をもたらした名ギタリストだと思う。

 

 アメリカ音楽への旅は次作『魂の叫び』で一応終わる。次なる巡礼の地はヨーロッパ。U2は『アクトン・ベイビー』をベルリンで録音、エレクトロニックなダンスビートをまとった新しいサウンドを披露した。アイデンティティをめざして、アメリカ、ヨーロッパへ移っていく様は、デイヴィッド・ボウイの辿った道と同じで面白い。

 

♪好きな曲

 

Where the streets have no name

荘厳なイントロから疾走感ある展開が素晴らしい。2002年のスーパーボウルでの演奏は感動的だった。

 

 

Where the Streets Have No Name

Where the Streets Have No Name

  • U2
  • ロック
  • ¥250

 

 

I still haven’t found what I’m looking for

邦題「終わりなき旅」。分かりすく親しみやすい曲で、シングルカットされ全米1位。

 

I Still Haven't Found What I'm Looking For

I Still Haven't Found What I'm Looking For

  • U2
  • ロック
  • ¥250

 

 

With or without you

穏やかな始まりから、徐々にエモーショナルになって聴き手を鎮めるように終わる。なんてカッコいい展開。シングル第2弾で全米1位。

 

With or Without You

With or Without You

  • U2
  • ロック
  • ¥250