Vol.31 WHO’S NEXT THE WHO 1971
初の1位を獲得、代表曲が並ぶ、
創造性と進化のピークを示した必聴作。
フーズ・ネクスト/ザ・フー
楽曲、パフォーマンスと、ザ・フーがもっとも創造性を発揮したアルバムであり、彼らの最高作といっていい。もちろん、ブリティッシュ・ロックの名盤だ。全英1位、全米4位。
今では、ファンも評論家も認める名盤であるが、メンバーのピート・タウンゼントは、当初このアルバムのことを嫌っていた。
「これは妥協したアルバムだ。当時、僕らが持っていた最高のものでできているけど、すべてが劇場用のプロジェクト、映画用のアイデアだ」と(でも、最高のものとは認めているね)。
そう言うのも分かる。なぜなら曰く付きのアルバムだからだ。ここに収められた楽曲は、もともとピートが考えたプロジェクト<ライフハウス>のために作られたものであった。
<ライフハウス>とは、風変わりなストーリーを持った、映画、演劇、オペラのようなものだったらしい。しかし、プロジェクトは結局頓挫してしまった。そこで共同プロデューサー兼エンジニアのグリン・ジョンズ(レッド・ゼッペリン、ローリング・ストーンズ、スモール・フェイセスなどの作品を手がけた)が、コンセプトなど持たせずに曲の寄せ集めでアルバムを作ろうと進言して完成させた。
コンセプトのしばりがなくなったおかげで、楽曲のクオリティ優先で選ばれたのだろう。『フーズ・ネクスト』は、「Baba O’riely」、「Won’t get fooled again」「Behind blue eyes」といった、ザ・フーの代表曲(ロック・クラシックスでもある)を含む、充実した内容となった。全楽曲よく作り込まれている印象が強く、埋め草的な曲がない。
ほぼ全曲を書いたピートのソングライティングは冴えわたっており、シンセサイザーやシーケンサーの使いかたのセンスも、この時代にしては進んでいる。
演奏もすばらしく、とくにロジャー・ダルトリーの歌声は表現豊かで、繊細な表情を見せてくれる。こんなに上手い人だったっけと驚いたくらいだ。
ザ・フーは、ハードロックで分類されることが多いが、レッド・ゼッペリンやディープ・パープルと比べると、ずいぶんとソフトでライトである。そのへんが個人的に気に入っているが、反対に本国ほど、日本で人気がないのはそこが原因かもしれない。
このアルバムでも、ちょっとハードなロックンロールナンバーはあるが、全体的には、軽快でメロディやアレンジが際立っている印象が強い。
個人的には「Song is over」、「Getting in tune」(両方とも、ゲストのニッキー・ホプキンスのピアノがいい)といった、のどかな趣きの、少し複雑な展開を見せる曲は気に入っている。
ところで、アルバムのジャケットの写真だが、なぜモニュメントのような巨石に立ちションなのか。何か意味が込められているのかと思ったが、特にないようで、メンバーも何も説明していない。当初は太った裸の女性を使った案を考えていたらしい。こういう不遜なところは、やはりザ・フーらしい。
♪好きな曲
Baba O’riley
ミニマルなシンセのフレーズとヴァイオリンが印象的な高揚感あふれる曲。米国TVドラマ「CSI:ニューヨーク」のオープニング曲。
Won’t get fooled again
邦題は「無法の世界」。シングルカットされ全英9位、全米15位。アルバムは8分半のロングバージョン。米国TVドラマ「CSI:マイアミ」のオープニング曲。
The song is over
ライブでは演奏されなかった(らしい)曲。後半にかけての盛り上がりが素晴らしい。