VOL.8 Pet Sounds The Beach Boys 1966
孤高の天才がありったけのアイデアと、
情熱を注いで作った早すぎた大傑作。
ペット・サウンズ/ビーチ・ボーイズ
それまでのロックやポップスでは想像もできなかったアイデアが盛り込まれていながら、普遍的な魅力を持つ早すぎた大傑作だ。そして色々なエピソードで語られる名盤でもある。
国内外のミュージシャン、音楽評論家、耳の肥えた音楽ファンは揃って、このアルバムがいかに革新的であったか、ブライアン・ウィルソンがいかに天才であったかを語る。
たとえばビートルズの『ラバーソウル』を聴いてショックを受けたブライアン・ウィルソンが対抗すべく一人で作り上げたとか。「『サージェントペパーズ~』にとって一番の影響は『ペット・サウンズ』だった」とポール・マッカートニーが、後にも先にもないアルバムだと絶賛したとか。
同時に当時は多くのファンやレコード会社だけでなく、メンバーさえもとても困惑させてしまった。特にメンバーのマイク・ラブは「誰がこんな音楽を聴くのか、犬か」とこき下ろしたという。
作家の村上春樹もお気に入りの作品として著書などの中で度々取り上げており、聴くたびに新しい発見があり、その魅力が分かるまでずいぶんと時間がかかったと語っている。(『ペット・サウンズ』について書かれた本も翻訳している)。
80年代の終わり頃、初CD化の際に聴いた。正直なところ、どこかスゴイのかよく分からなかった。きれいなメロディの同じような雰囲気の曲が集まっているという感じだった。
オールディーズマニアでもあるミュージシャンの山下達郎氏が書いた解説には、いかに革新的であるのかが詳しく紹介されていた。たとえば転調だらけのメロディ、不思議なコード展開、ルートに向かわないベースライン、複雑なアレンジやコーラス、ユニークな楽器の使い方から生まれる独特の音色…。僕がその革新性が分かるようになったのは、もう少し後。
これだけのことを一度にやれば、先鋭的なものに仕上がるか失敗するかだ。それなのに親しみやすいポップスとして完成させたところがブライアンの天才たる由縁…といったことを脇においても、『ペット・サウンズ』は素敵な音楽がつまった、聴くたびに素晴らしさが楽しめるアルバムだ。
何度聴いても「素敵じゃないか:Wouldn’t it be nice」の弾むようなメロディとコーラスには胸が高鳴るし、「永遠に君を愛さないかもしれない」と歌われる世にも美しい「God only knows」に聴き惚れてしまう。センチメンタルな美しさがしみる「駄目な僕:I just wasn’t made for these times」や「Caroline,no」は当時のブライアンの孤独な心中を知ると泣けてくる。
全体に漂う雰囲気は、ビーチ・ボーイズらしい海、夏、カリフォルニアの陽光とは全く対極の世界だ。希望や歓びはあるが、どこか哀しく切ない。21世紀の今、革新性を期待して聴くと拍子抜けするだろう。
でも、音楽の美しさや人が誰しも感じる心模様が鮮やかに表現された作品として受け止めてもらえるなら、愛しくならずにはいられないと思う。
♪好きな曲
Wouldn’t it be nice
一緒に暮らせたら素敵だろうなと希望に満ちあふれた、ラブラブ感いっぱいの名曲。全米8位。
God only knows
ポール・マッカートニーが今まで聴いた曲の中で最高と言ったとか。ロック史上、歌の中でgodが初めて登場した曲。全米では39位だが全英では2位。
I just wasn’t made for these times
途方にくれる心情を、これまた美しく沁みるメロディで歌っている。