Vol.42 Court And Spark Joni Mitchell 1974
淡い色彩と浮遊感。ジャズ、
フュージョン時代の最高作。
コート・アンド・スパーク/ジョニ・ミッチェル
ジョニの創造性が、ジャズ、フュージョンの名手たちによって大きく飛躍した。全米2位、64週もチャートインした傑作で、彼女のアルバムの中で最もヒットした。
6作目となる『コート・アンド・スパーク』は、いわゆるジョニ・ミッチェルのジャズ、フュージョン時代の幕開けとなるアルバムである。フォーク時代と比べると、音の色彩感が華やかになった。ただし、くっきりとした原色ではなく、淡い彩り。
彼女の音楽の特徴として、よく言われるのが浮遊感である。ふわりとした感触、風に乗ってゆっくりと飛んでいくような。それを具体化しているのが独特のコード進行だ。
彼女はギタリストとしては、変則チューニングの名手と評され、変わった(しばしばジャズ的と表現される)コード感を生み出す。メロディもコードに呼応するように作られ、結果として浮遊感のある音がつむがれる。
初期のフォークスタイルでは、表現を最大化するには不十分だとジョニ本人も思っていたようで、「私の音楽はあまりに風変わりだったので、彼ら(ロックミュージシャン)には演奏することができなかった」
「私のハーモニーはよく奇抜だっていわれた。あまりにポリフォニックだって。彼らはそうしたコードをどう弾いたらいいかどうしても理解できなかった」と述べている。
そこでジョニは、本作からジャズ、フュージョンのミュージシャンを全面起用し、新たな世界を開こうとした。もくろみは見事に成功し、アルバムもシングルも大ヒットした。
参加ミュージシャンは、トム・スコット率いるL.A.エキスプレス、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンらクルセイダースの面々。特にトム・スコットがプレイヤーとしても、アレンジャーとしてもよい仕事をしている。ホーンのアレンジが本当に素晴らしい。
ジョニの歌声と浮遊感を際立たせるため、演奏は抑制を効かせているが、ちょっとしたソロやオブリガートがこの時代のフュージョンらしく気持ちよい。あまり言われないが、ジョニの歌声も魅力的だ。やさしく澄んだ音色がすっと入ってくる感じが好きだ。
大ヒットシングル「Help me」はこの時点で、最も理想を表現できた曲であったと思う。彼女らしいギターのストロークをバックの演奏が心地よく乗せていく。
軽快なリズムにジョー・サンプルのエレピや、ラリー・カールトンのギターが彩る。ソウルっぽいコーラスも素敵なアクセントになっている。そしてトム・スコットのホーンが中盤(1分40秒あたりから)から曲を盛り上げる。徐々に飛行高度を上げていくような雰囲気がすばらしい。パーフェクトなアレンジだ。
ジョニは画家でもあり、映像作家でもある。それが影響しているのだろう。音楽についても、彼女の私小説的な世界、心象風景にあわせて、絵筆のようなタッチで繊細に歌を描いていく。
やはり、カナダ生まれのシンガーソングライターの感性や美意識は独特だ。レナード・コーエン、ニール・ヤングしかり。
♪好きな曲
Help me
浮遊感と軽やかなグルーブが気持ちいい。シングルカットされ全米7位。
Free man in Paris
Help meと似た感じ。ライブ盤『Shadows and light』でのバージョンも素晴らしい。シングルは全米22位。
Down to you
ジョニによるピアノの弾き語り。美しいストリングスとホーンのアレンジは、彼女とトム・スコット。