Vol.12 LIVE Donny Hathaway 1972
グルーブと熱狂が一体化、
早逝の天才が放った渾身の名演。
ライブ/ダニー・ハサウェイ
グルーブ全開の演奏と聴衆の熱狂が一体となって押し寄せる感動といったら!ローリング・ストーンズ誌が選ぶ史上最高のライブアルバム50選にも入った大傑作である。全米18位、後にゴールドディスクを獲得、ダニーのアルバムの中で最もヒットした。
僕もそうだったけど、ソウルを初めて聴こうと思っている人にとって、うってつけのアルバムだ。何しろ聴きやすい。マーヴィン・ゲイの「What’s going on」、キャロル・キングの「You’ve got a friend」、ジョン・レノンの「Jealous guy」といった名曲も入っている。
ソウルに興味を持ち始めた頃、ピーター・バラカン氏の『魂のゆくえ』という本をガイドにいろいろなソウル名盤を聴き漁った。その中で、ピーターさんがとても褒めていたのがこの『ライブ』だ。聴いてみたら大当たり。すぐにダニーの他のアルバムも聴き、すっかり気に入ってしまった。
アルバムは、長尺のほぼジャムナンバーと歌ものが並んでいる。ファンク、ソウル・ジャズ調の10分を超える「The ghetto」、「Voice Everything(Everything and Everything)」は最大の聴きどころだ。
アルバム全体に言えることだが、ダニーのエレクトリックピアノ、ピアノが素晴らしい。ギターやコンガとからみながら縦横無尽にグルーブするのだ。エレピのゆらぎが転がる感触は、とても気持ちがよい。とりわけ長尺の2曲はそれがたっぷりと楽しめるのである。
歌ものでは、オープニングの「What’s going on」や「Little Ghetto Boy」、「Hey Girl」といったニューソウルらしいメロウな曲が好きだ。
また、ライブ盤ということで聴衆の熱狂がいいアクセントになっている。曲によっては一緒に歌ったり、曲の途中で歓声を入れたりするのであるが、いかに聴衆がパフォーマンスに感銘し、ひとつになろうとしているかが、よく伝わってくる。
山下達郎は、ライブ盤『It’s A Poppin Time』(これもカッコいい)を録る時に、この『ライブ』のようにグルーブの効いた歌と熱い演奏をめざしたという。
ダニーはソロとしてのキャリアが実質数年だったせいか、ソウルファン以外にはあまり知られていないようだが、スティービー・ワンダーと並ぶ天才ソウル・アーティストである。
幼少のころからゴスペルやピアノを学び、名門の黒人大学であるハワード大ではクラシックを学んだ。その後、アレンジャー、コンポーザーとしてキャリアを積み、1970年にソロデビュー。『ライブ』は3作目になる。
ちょうどアーティストとして、大きく成長をしていた時期なのだ。翌年にリリースされた次作『愛と自由を求めて』でダニーは最初の(そして最後の)ピークに達した。しかし、その後、彼は精神のバランスを崩したこともあり、アルバムを作ることなく、断続的な活動をするにとどまった。
そして1979年1月13日、ニューヨークのホテルから転落し亡くなった。自殺と言われているが、はっきりとは分かっていない。この時、まだ34歳。希望の光を灯すような歌を作ってきた人だけに、なぜ?という感が今でも残る。
♪好きな曲
What’s Going On
緩めのソウル・ジャズ風のアレンジだが、弾むようなダニーのエレピもあって、グルーブは気持ちがいい。
Little Ghetto Boy
ダニーの代表曲であり、当時の黒人社会へ向けたメッセージソング。希望が伝わってくるようなメロディがいい。後にスタジオバージョンも登場。
Hey Girl
このアルバムでしか聴けない。ちょっとラテンのリズムを感じさせる、メロウな雰囲気の曲。