若い人のための洋楽ロック&ポップス名盤案内

やがて聴かれなくなるかもしれない'60~'80の海外ロックやポップスの傑作(個人的な意見)を紹介します。

Vol.17 Close To The Edge YES 1972

曲、パフォーマンス、すべてが完璧。

バンドが絶頂を究めた大傑作。

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危機/イエス

 好き嫌いは別にして、『危機』はパーフェクトなアルバムだ。楽曲、演奏、アートワークも含めたアイデアすべてがこれ以上、足すものがないくらい素晴らしい。プログレッシブ・ロックというカテゴリーだけで語られるには、たいへんもったいない大傑作である。

 

 バンドの黄金時代に君臨した最高傑作であり、ロックアルバム屈指の名盤といっていい。全米3位、全英4位と大ヒット。難解な歌詞や長い曲、しかも踊れないし。そんなアルバムが売れた。

 

 初の全米1位のシングル「ロンリーハート」をおさめ、世界的にヒットした、1983年の『90125』でさえ、全米5位、全英16位というのに。

 

 イエスというと、ジョン・アンダースンの澄み切ったハイトーンの歌声、クリス・スクワイアの自己主張の強いベースを核とした鉄壁のリズム、変幻自在に駆け巡るスティーブ・ハウのギターである。そこに派手でやや大げさな、リック・ウェイクマンのキーボードやコーラスワークが彩りを添える。『危機』では、それらいずれもが高い完成度で展開される。

 

 前作、前々作から、複雑な組曲形式の長尺曲に挑んできたイエスだが、5作目の『危機』でそれが結実した。全3曲、18分の「危機(Close to the edge)」、10分の「同志(And You and I)」、8分の「シベリアン・カートゥル」と長いのばっかり。

 

 長い曲というのは、出来ばえや展開がいまいちだと退屈してしまうものだが、この3曲はまったく長さが気にならない。いずれも印象的なメロディやフレーズ、緻密なアレンジ、緩急のある展開が施された構築美ともいえるサウンドは聴き飽きることがない。スリル、スピード、スぺクタクルがあるのだ。

 

 ただ、ヘルマン・ヘッセの『シッタルーダ』からインスパイアされたという「危機」の歌詞は、とても抽象的で読み解くのは難しい。他の2曲も同様だ。なんでこんな小難しい内容のものが全米3位になるのか。当時買った人は、何を期待していたのか、そもそも理解できたのか聞いてみたいものだ。

 

 ところでイエスの長尺曲は、構築美というには、ぎこちなく、無理やりつなげたという感のある展開が特長だ。クリス・スクワイアによると、断片的な曲を録って、テープ編集でつなげたこともあったという。所々で強引と言える展開はその影響かもしれない。

 

 だがテクニシャン揃いの彼らがやると、これ以上やると空中分解してしまう、失速ギリギリのアンサンブルが実現される(ライブではほぼスタジオ盤どおりに演奏される)。それが、かえってスリルを生み出し、聴く方としてはカタルシスのようなものさえ感じることがある。

 

 イエスが一番面白かったのは、『危機』の前作‘72年の『こわれもの』から、‘77年の『究極』あたりまで(‘74年の『海洋地形学の物語』はややスピードやスリルに欠ける)。個人的には『危機』をほうふつさせる‘74年の『リレイヤー』が好きだ。よりシャープでアグレッシブなサウンドがカッコいい。

 

♪好きな曲

といっても全3曲しかない…)

 

Close To The Edge

4部構成の組曲。緊張感みなぎる演奏、精密なモザイクのようなサウンド、あっという間の18分。

 

 

 

 

And You And I

イントロのギターのチューニング音がいい。牧歌的でシンフォニックなイエスらしい曲。

 

 

 

Siberian Khatru

サビが童謡「アルプス一万尺」に似ている。当時はライブではオープニングナンバーだった。

 

 

Siberian Khatru

Siberian Khatru

 

Vol.16 THE DOORS 1967

文学的な世界観と多様な音楽性を

内包、熱気をはらんだクールな衝動。

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ハートに火をつけて/ザ・ドアーズ

 デビューアルバムにして、ロックのマスターピースとなった名盤。バンドの最高傑作という点では次作『まぼろしの世界』が挙げられることも多いが、有名な代表曲が3曲収められているし、世の中やロック史の中での影響の大きさから考えると、本作の方を選んでしまう。それに売れた。全米2位、ゴールドディスク認定。

 

 はじめてこのアルバムを聴いた時、なんてカッコいいんだと思った。最も印象的だったのがオルガンとギター。それはロックではなく、ジャズを思わせた。もっとも当時はそれほどジャズを聴いていないので、ジャズっぽいというレベルではあったが。

 

 オルガン担当のレイ・マンザネクによると、ドアーズはヴァン・モリソンがいたロックンロールバンド、ぜムの影響が大きかったということだが、そこにマイルズ・デイビスジョン・コルトレーンといったジャズやクラシックの要素を入れたら、ドアーズのサウンドになったという。

 

 ドアーズはアルバムごとにサウンドも少しづつ変わっていくわけだが、最もジャズ色が濃く、ラテンやブルーズが交じり合った熱気を感じさせつつも、クールでグルーブな音を持っているのが、このデビュー作である。個人的には本作のドアーズが一番好き。

 

 高校生の時に観た『地獄の黙示録』がドアーズとの初めての出会いだったせいか、「The End」を聴くと、今でも禿げ頭のマーロン・ブランドやパンツ一丁でクネクネと踊るマーティン・シーンなど劇中シーンがフラッシュバックする。完全に両者がひもづけされて記憶されてしまっているのだ。

 

 そしてドアーズをドアーズ足らしめているのがヴォーカルのジム・モリソンである。詩人であり、作曲家であり、セックスシンボル。そして、酒とドラッグの中毒者。カウンターカルチャーの英雄。文学、哲学、映画からの影響による世界観をドアーズに持ち込んだのはモリソンだ。

 

 バンド名もモリソンが命名した。詩人ウイリアム・ブレイクの詩の一節「知覚の扉が浄化されると、あらゆることが本来の姿を示すだろう、永遠に」の「知覚の扉」からヒントを得た。

 

 ‘71年7月3日、パリのアパート(クラブのトイレ説も)でモリソン死亡。死因は公式にはアルコール中毒だが、ヘロイン中毒とも言われている。ドアーズは実質、ここでジ・エンド。活動期間はわずか4年だった。

 

 にもかかわらず、その評価は今も絶大だ。イギー・ポップパティ・スミスなど主にパンク、ニューウェイブのミュージシャンに多くの影響を与えたし、ストラングラーズなんて、パンクのドアーズという感じだ。

 

 冒頭から、向こうまで突き抜けろ!と煽り、ハートに火をつけて、激しく燃え上がろう!とハイになりながらも、最後はこれで終わりだ、すべては終わりだと諦観でしめくくる。まるでモリソンの一生を歌ったような内容じゃないか。とあらためて本作を聴いて感じた。できすぎだ。

 

♪好きな曲

 

Break On Through (To The Other Side)

リムショットによるラテンっぽいグルーブがカッコいい。歌詞はモリソンの人生テーマそのもの。

 

Break On Through (To the Other Side)

Break On Through (To the Other Side)

 

 

Light My Fire

全米3週連続1位、ロックのスタンダード。1分過ぎから始まるジャズロック風のオルガンとギターソロが圧巻。聴くならアルバムバージョンを。

 

 

 

Light My Fire

Light My Fire

 

The End

父親殺し、母親との近親相姦をうたった歌詞で知られる。中近東風のギターと語りのような歌は荘厳でさえある。

 

 

The End

The End

 

Vol.15 The First Of A Million Kiss Fairground Attraction 1988

古いジャズやトラッドの香り漂わせ、

魔法のようでもあり、ロマンティック。

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ファースト・キッス/フェアグラウンド・アトラクション

 きらびやかなロックやポップス全盛の’80年代後半、素朴だけれど、ルーツ音楽の美しい香りを漂わせるバンドがいた。彼らはたった1枚の素敵なアルバムを残して消えていった。異世界に誘い込むようなロマンティックな趣きは魔法のようでもある。

 

 ’87年に結成、’90年1月に解散した4人組のフェアグラウンド・アトラクション。意味は「移動遊園地の出し物」である。彼らは、その名のとおり、カーニバルの演目のように賑やかに現れ、それが終わると儚さを残して、あっさりと去っていった。

 

 そのサウンドは移動遊園地の出し物に似合いそうな、古いジャズやトラッド・フォークなどルーツ音楽からの影響がうかがわれるアクースティックなサウンド。そのせいか、ノスタルジーを感じさせるところがあるが、モダンなアレンジやコードのせいもあって、セピア色の古臭さはなく、カラフルな感じさえする。

 

 そこにエディ・リーダーの艶のあるみずみずしい歌声が重なると、魔法にかかったように聴き入ってしまう。彼女の声なしにフェアグラウンド・アトラクションは成り立たない。曲を書いているのは、ギターのマーク・E・ネヴィン(1曲のみエディ)。

 

 ほとんどの曲が女性の気持ちを歌ったものなので、歌詞はエディかと思ったが、マークが書いていたことをけっこう後になって知って驚いたものだ。

 

 百万回のキスのファースト・キスというアルバム原題や曲名もそうだが、歌詞に夜空、星、月という言葉が多く登場することもあって、アルバムに漂うのはロマンティックな雰囲気だ。夜に聴くのが似合う音楽だ。

 

 シングル「パーフェクト」は全英1位、アルバムも全英1位。’88年のブリット・アウォードでも前者が最優秀シングル、後者が最優秀アルバムを受賞した。オリジナル・アルバムはこれ1枚きりだが、解散後に未発表曲などを集めた編集盤やライブ盤が出ている。

 

 アルバムジャケットに使われている写真は、1955年にカリフォルニアで写真家エリオット・アーウィット(写真家集団マグナム・フォトのメンバー)が撮ったもの。

 

 僕はこの写真で、アーウィットに興味を持って「幸福の素顔」という写真集を買った。演出されたもの、偶然の一瞬をおさめたもの、いろいろあるがそれらの多くは日常にひょいと顔を出す、ユーモアを切り取った写真で、思わずにやりとしてしまう。

 

 解散後、エディもマークもソロ活動を始めた。エディのソロは、よりコンテンポラリーなサウンドになっていたし、マークの方が、フェアグラウンドに近いものの、ヴォーカルがエディではない分、あの雰囲気とは異なる。やはり、マークの曲とエディの歌声があってのフェアグラウンドなのだ。

 

 2作目、3作目を聴きたかった気もするが、移動遊園地の出し物のように、刹那ではあるが、二度とないかもしれない素敵な邂逅という印象もあって、この1枚でも十分だと今は思う。

 

♪好きな曲

 

Perfect

人気に火をつけた先行シングル。弾むような明るいメロディで燃えない不倫なんてごめんだわと歌う。

 

 

Perfect

Perfect

 

 

The Moon Is Mine

古いジャズナンバーを思わせる。弾けるようなノリノリのヴォーカルがいい。

 

The Moon Is Mine

The Moon Is Mine

 

 

Allelujah

個人的に1番好き。百万回のキスのファースト・キスはここからのフレーズ。編集盤にあるライブバージョンはもっと感動的。

 

 

Allelujah

Allelujah

 

Vol.14 Sweet Baby James James Taylor 1970

シンガーソングライター時代の

始まりを告げた、やすらぎと癒しの歌。

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スウィート・ベイビー・ジェイムズ/ジェイムズ・テイラー

 それまでのフォークとは異なる、新しいスタイルのシンガーソングライター像を決定づけた男、ジェイムズ・テイラー。自らの体験を色濃く反映させたアルバムは、当時、疲弊した人々に救いと共感をもたらし、心をいやした。全米3位、優しさあふれる名盤だ。

 

 1970年頃、アメリカで起きたシンガーソングライターのブームは、必然的なものであった。’60年代、アメリカの社会は反戦運動公民権運動、女性解放運動、カウンターカルチャーといった大きなムーブメントに揺れ動かされ、価値観もまた大きな揺れの真っただ中にあった。理想と現実、夢と挫折に振り回され、人々の心は疲れきっていた。

 

 当時の音楽シーンはというと、ビートルズは解散し、ジミ・ヘンドリックスも、ジャニス・ジョップリンもジム・モリソンもドラッグで命を落とした。人々は夢を失い、歌に変革ではなく、やすらぎと癒しを求めるようになる。

 

 そうした渇望に応えたのが、ジョニ・ミッチェルニール・ヤングなどのシンガーソングライターたちであり、その先鞭をつけたのが、ジェイムズ・テイラー(以下、JT)のソロ2作目『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』だった。

 

 アルバムはじわじわと評価を得て大ヒット。シングル「Fire and Rain」も全米3位を獲得し、大きな注目を集めた。

 

 そこで歌われているのは、孤独や疎外感からの救い、再生への祈りである。ソロデビュー作の失敗、ドラッグ中毒、友人の死などJTの個人的な挫折や体験から生まれた内省やラブソングに多くの人が共感した。そして、それは他のシンガーソングライターたちにも共通することであった。

 

 JTの場合はサウンドも独特であった。さらりと聞き流せば、明るく牧歌的なアクースティックなサウンドだ。しかし、シンコペーションが絶妙なギターや洗練されたコードによって、雰囲気は都会的だ。少年時代やアマチュア時代にクラシックやジャズを学んだJTの音楽的素養によるものだ。

 

 でも一番の魅力は、JTの声。父性的な優しさを含んだテナーボイスにやすらぎを感じずにはいられない。’71年に「You’ve Got A Friend」で全米1位、グラミー賞を獲得するわけだが、僕はキャロル・キングのオリジナルよりも、ヴォーカルの温もりという点でJTの方が好きだ。

 

 バックは盟友ダニー・クーチマー、ラス・カンケル、キャロル・キングが中心となって務めた。特にラスのドラムとキャロルのピアノは音に彩りを添えている。

 

 はっぴいえんどの「風をあつめて」、「夏なんです」を聴いた時、ああ、JTだなぁと思っていたら、この曲を作った細野晴臣は、後のインタビューで「僕はJTといえば、『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』があればいいんだ。とにかくこのアルバムにはトータルで影響されたね。特に生ギターの奏法をね」と語っていた。

 

 近年はマイペースで活動しているJT、今ではすっかり禿げあがってしまったけれど、素敵な声とギターはちっとも変っていない。これも世界音楽遺産にしたい。

 

♪好きな曲

 

Fire and Rain

炎もくぐり抜けたし、雨にも打たれたと苦悩と救いについて切々と歌う。JTの代表曲。

 

 

Fire and Rain

Fire and Rain

 

 

Sunny Skies

地味で小品だが、ギターによるコードとリズムがなんとも心地よい、ほのぼのとした曲。

 

Sunny Skies

Sunny Skies

 

 

Blossom

Blossomは花ではなく、愛しい人のこと。可愛いらしい、やさしいメロディがいい。

 

Blossom

Blossom

 

Vol.13 Band On The Run Paul McCartney & Wings 1973

ビートルズの呪縛から脱出、

ソロキャリアの飛躍をもたらした傑作。

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バンド・オン・ザ・ラン/ポール・マッカートニー&ウイングス

 ソロ時代の最高傑作という評価もさることながら、ビートルズの呪縛から逃れ、新たな飛躍のきっかけとなった点で、ポールにとって大きな意味のあるアルバムになった。全米1位(3回)、全英1位(7週連続)を獲得、グラミー賞2部門受賞という輝かしい成果を収めた。

 

 ビートルズ解散後、ポールは、2枚のソロアルバムを出したものの、ファンや評論家を満足させることはできなかった。期待の高さゆえというのもあったのだろう、セールスは好調であったが、内容についてはジョン・レノンのソロ作のように絶賛されなかった。

 

 そこで今度はバンド、ウイングスを結成しアルバム(ウイングス名義)を出す。まずまずのヒットはしたが、評価はいまひとつ。でも、ジョンだけは「あいつは正しい方向へ進んでいる」と語った。バンドという環境に手ごたえを感じたのか、ポールはツアーを重ねながら活路を探った。

 

 ‘73年になると、ポール・マッカートニー&ウイングス名義で『レッドローズ・スピードウェイ』を発表。さらに「マイ・ラブ」、映画007の主題歌「死ぬのは奴らだ」などのシングルを大ヒットさせた。その勢いで作られたのが本作だ。

 

 かくして『バンド・オン・ザ・ラン』は、『アビー・ロード』や『サージェント・ペパーズ~』を思わせる、バラエティに富んだポップなロックアルバムに仕上がった。断片的な曲をつないで1曲にするとか、他の曲のフレーズを練り込んでアルバムにトータルな演出をするとか、ビートルズ時代の得意技がフルに発揮された。

 

 シングルヒットした2曲「バンド・オン・ザ・ラン」、「ジェット」を冒頭に、「ブルーバード」、「マムーニア」、「ノー・ワーズ」といったポールらしい美しい、楽しい、優しいメロディが映える曲を挟み、地味だけどドラマティックな「西暦1985年」で締めくくる。フルコースのように次々と違うタイプの曲が現れるので退屈しない。

 

 結果として、ビートルズとは違った魅力のある、ウイングスらしいサウンドが生まれた。素直にビートルズ的な部分を受け入れて、バンドを楽しみながら作ったのが良かった(ただし録音はトラブル続き)。

 

 リアルタイムということで、個人的にはビートルズより、ウイングスの方に思い入れがある。ポールの才能にしても、この時代から80年代初期くらいまでが最盛期だと思う。

 

 ところでウイングスらしさといえば、当時のポール夫人、リンダの存在は意外に大きい。特にコーラスでのリンダはサウンドに不可欠だった。ポールも「ウイングスの良さ、最大の特徴はリンダの存在」と言っているくらいだ。

 

 バンド・オン・ザ・ラン。そうバンドはビートルズから脱出したのだ。「ある意味では僕がビートルズという牢獄から脱出を企てるという意味も込められていた」とポールは後に語った。やっぱり。脱出に成功して良かったな、ポール。

 

♪好きな曲

Band On The Run

3 部構成のめくるめくメドレーの曲。ライブでも定番。シングルカットされ全米1位、全英3位。

 

 

Band On the Run

Band On the Run

 

 

JET

僕が初めて買ったロックのシングル盤。これでポールが元ビートルズと知った。派手なブラス、分厚いコーラスが痛快なポップなロック。全米、全英共に7位。

 

 

Jet

Jet

 

Bluebird

ボサノバのような雰囲気の美しいメロディのバラード。

 

 

Bluebird

Bluebird

 

Vol.12 LIVE Donny Hathaway 1972

グルーブと熱狂が一体化、

早逝の天才が放った渾身の名演。

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ライブ/ダニー・ハサウェイ

 グルーブ全開の演奏と聴衆の熱狂が一体となって押し寄せる感動といったら!ローリング・ストーンズ誌が選ぶ史上最高のライブアルバム50選にも入った大傑作である。全米18位、後にゴールドディスクを獲得、ダニーのアルバムの中で最もヒットした。

 

 僕もそうだったけど、ソウルを初めて聴こうと思っている人にとって、うってつけのアルバムだ。何しろ聴きやすい。マーヴィン・ゲイの「What’s going on」、キャロル・キングの「You’ve got a friend」、ジョン・レノンの「Jealous guy」といった名曲も入っている。

 

 ソウルに興味を持ち始めた頃、ピーター・バラカン氏の『魂のゆくえ』という本をガイドにいろいろなソウル名盤を聴き漁った。その中で、ピーターさんがとても褒めていたのがこの『ライブ』だ。聴いてみたら大当たり。すぐにダニーの他のアルバムも聴き、すっかり気に入ってしまった。

 

 アルバムは、長尺のほぼジャムナンバーと歌ものが並んでいる。ファンク、ソウル・ジャズ調の10分を超える「The ghetto」、「Voice Everything(Everything and Everything)」は最大の聴きどころだ。

 

 アルバム全体に言えることだが、ダニーのエレクトリックピアノ、ピアノが素晴らしい。ギターやコンガとからみながら縦横無尽にグルーブするのだ。エレピのゆらぎが転がる感触は、とても気持ちがよい。とりわけ長尺の2曲はそれがたっぷりと楽しめるのである。

 

 歌ものでは、オープニングの「What’s going on」や「Little Ghetto Boy」、「Hey Girl」といったニューソウルらしいメロウな曲が好きだ。

 

 また、ライブ盤ということで聴衆の熱狂がいいアクセントになっている。曲によっては一緒に歌ったり、曲の途中で歓声を入れたりするのであるが、いかに聴衆がパフォーマンスに感銘し、ひとつになろうとしているかが、よく伝わってくる。

 

 山下達郎は、ライブ盤『It’s A Poppin Time』(これもカッコいい)を録る時に、この『ライブ』のようにグルーブの効いた歌と熱い演奏をめざしたという。

 

 ダニーはソロとしてのキャリアが実質数年だったせいか、ソウルファン以外にはあまり知られていないようだが、スティービー・ワンダーと並ぶ天才ソウル・アーティストである。

 

 幼少のころからゴスペルやピアノを学び、名門の黒人大学であるハワード大ではクラシックを学んだ。その後、アレンジャー、コンポーザーとしてキャリアを積み、1970年にソロデビュー。『ライブ』は3作目になる。

 

 ちょうどアーティストとして、大きく成長をしていた時期なのだ。翌年にリリースされた次作『愛と自由を求めて』でダニーは最初の(そして最後の)ピークに達した。しかし、その後、彼は精神のバランスを崩したこともあり、アルバムを作ることなく、断続的な活動をするにとどまった。

 

 そして1979年1月13日、ニューヨークのホテルから転落し亡くなった。自殺と言われているが、はっきりとは分かっていない。この時、まだ34歳。希望の光を灯すような歌を作ってきた人だけに、なぜ?という感が今でも残る。

 

♪好きな曲

 

What’s Going On

緩めのソウル・ジャズ風のアレンジだが、弾むようなダニーのエレピもあって、グルーブは気持ちがいい。

 

 

What's Going On (Live)

What's Going On (Live)

 

Little Ghetto Boy

ダニーの代表曲であり、当時の黒人社会へ向けたメッセージソング。希望が伝わってくるようなメロディがいい。後にスタジオバージョンも登場。

 

 

 

Little Ghetto Boy (Live)

Little Ghetto Boy (Live)

 

Hey Girl

このアルバムでしか聴けない。ちょっとラテンのリズムを感じさせる、メロウな雰囲気の曲。

 

Hey Girl (Live)

Hey Girl (Live)

 

Vol.11 LET IT BLEED THE ROLLING STONES 1969

名曲、ライブ定番曲が揃った、

ストーンズ流スワンプ・ロック。

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レット・イット・ブリード/ローリング・ストーンズ

 古典ブルーズやカントリーなど米国南部ルーツ・ミュージックを咀嚼し、ストーンズ流スワンプ・ロックを確立。音楽的、名声ともに飛躍を遂げた‘70年代の発火点となった’60年代ロックの傑作。全英1位、全米3位とダブルプラチナを獲得した。

 

 ストーンズの中で一番好きなアルバムだ。聴き飽きることがない。ロックアルバムとしても、捨て曲、無駄な曲のない完璧なアルバムの1枚だと思う。名曲に始まり、名曲で終わるから、聴き終えた後の満足感が違う。もちろん、その間にも人気曲やライブの定番曲が詰まっている。

 

 ルーツ・ミュージックへの再接近を図った、前作『ベガーズ・バンケット』で再び成功と高い評価を得たストーンズは、方向性に確信をもって『レット・イット・ブリード』に臨んだと思う。だから、これだけの完成度の高い曲が揃ったのだ。

 

 とは言え、レコーディング中にオリジナルメンバーのブライアン・ジョーンズの脱退と不可解な死、ミック・テイラーの加入、アルバムリリース直前のコンサートでは「オルタモントの悲劇」が起きるという穏やかならない状況にあった。

 

 スキャンダラスなイメージで語られることが多いが、ストーンズはかなり職人気質の高いバンドだと思う。この時期、古典ブルーズやカントリー、サザンソウルといったアメリカ南部の音楽を吸収し、冷やかさと熱さが交じり合った彼らなりのスワンプ・ロックを作り上げた。

 

 不穏な雰囲気のイントロから導かれる冒頭の「Gimmie Shelter」は緊迫感漂うソウルフルなナンバー。キース・リチャーズのギターが、粘りと弾力のあるビートに絡んで独特のリズムを生み出す。この思わず身体が動くグルーブこそがストーンズだ。

 

 「Honky Tonk Woman」(全米4週連続1位)のカントリー・バージョン「Country Honk」や、ほんのりとした土臭さとルーズなリズムが心地よい「Let It Bleed」がいい具合にアルバムに緩やかさを添える。

 

 一方で「Live With Me」や「Midnight Rambler」、「Monkey Man」といったライブ映えするロックンロール、R&Bナンバーも繰り出される。楽曲のバランスが見事だ。それにイアン・スチュワート、ニッキー・ホプキンスらのピアノやオルガンがとてもいいアクセントを出しているおかげで多彩な音が楽しめる。

 

 ラストを飾るのは「無情の世界:You Can’t Always Get What You Want」。ゴスペルタッチの曲だが、ロンドンバッハ合唱団のコーラスが壮麗な雰囲気を生み、大団円にふさわしい雰囲気を創り出している。

 

 最高傑作と言われる次作『スティッキー・フィンガーズ』の方が完成度は高いが、聴くたびにみずみずしさを感じる点で、こちらの方を聴いてしまうのだ。

 

 ところで今作が出た1969年は『アビー・ロード』、『レッド・ツェッペリンⅡ』、『クリムゾンキングの宮殿』、『クロスビー、スティルス&ナッシュ』…’68年同様にロック名盤の豊作の年でもあった。

 

♪好きな曲 

Gimmie Shelter

戦争、殺戮、レイプが始まる、避難所くれ!とソウルシンガー、メリー・クレイトンとデュエットする緊張感みなぎるライブの定番曲。

 

Gimme Shelter

Gimme Shelter

 

 

Let It Bleed

地味だが、ゆったりしたノリがクセになってくる。日本だけでシングルカットされた。

 

 

Let It Bleed

Let It Bleed

 

You Can’t Always Get What You Want

欲しい時に限って手に入らない、と冷めた内容のわりには、希望を感じさせる雰囲気がある。これもライブ定番曲。