若い人のための洋楽ロック&ポップス名盤案内

やがて聴かれなくなるかもしれない'60~'80の海外ロックやポップスの傑作(個人的な意見)を紹介します。

Vol.9 Ⅲ Peter Gabriel 1980

非西洋世界のリズムを取りこみ、

衝撃の音響で奇才としての本領を発揮。

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Ⅲ/ピーター・ゲイブリエル

 英国ロックを席巻しつつあったニューウェーブの意匠に、アフリカ音楽などの非西洋世界のリズムを取り込み、聴いたこともないドラムサウンドで衝撃を与え、圧倒的なオリジナリティを創造。ソロ・アーティストとしての出発点となった大傑作。

 

 ジェネシス時代からファンだったが、このソロ3作目には最初はとても困惑した。ポップなロックの1作目、2作目とは全く違う音だったからだ。そうは言っても、未知のカッコよさを感じたこともあり、辛抱強く聴き込んだ。そのうちにすっかり好きになってしまって今では愛聴盤となった。

 

 元々、ゲイブリエルは探求心と好奇心が人一倍旺盛な人である。流行の音楽に敏感ではあるが、あからさまな追随はしない。必ず自家薬籠中というか、取り入れ方が巧みでオリジナリティを創り上げるのが得意だ。

 

 当時ゲイブリエルは、ロックに飽きて、アフリカやブラジルの音楽に惹かれており、非西洋的リズムと台頭してきたポストパンク的なサウンドの融合を試みようと思ったようだ。

 

 だからプロデュースはXTCジョン・フォックス時代のウルトラ・ヴォックス!を手がけていた新進のスティーブ・リリーホワイトに依頼。リリーホワイトはパンク畑であったため、廃れつつあったプログレッシブ・ロック出身のゲイブリエルからの依頼に耳を疑ったという。後にリリーホワイトU2ローリング・ストーンズなどを手がける大物プロデューサーとなる。

 

 とにかくドラムの音響が異様だ。1曲目の「Intruder」でやられた。バスドラムやスネアの音が残響を途中でぶった切ったような鳴り方なのだ。さらにシンバルがない。非ロック的ドラムでロックをやろうとしている感じだ。

 

 このゲートエコーと呼ばれる音響はエンジニアのヒュー・パジャムジェネシス時代の同僚で録音にも参加したフィル・コリンズのアイデアだったという。

 

 楽曲は「I Don’t Remember」、「Not One Of Us」のようなアグレッシブなギターが冴えるニューウェーブサウンドや、シングルヒットした「Games Without Frontiers」のような複雑なアレンジのエレクトロ・ポップ中心であるが、ゲートエコーが効いたドラムのため先鋭的な独特のサウンドに仕上がっている。

 

 また名曲「Biko」のようプリミティブ色の強い曲もある。戦争や人権など歌詞はシリアスだが、サウンドはパワフルでキレがあってカッコいい。ダークな雰囲気ながら全英1位、全米22位と大ヒットしたのも納得。斬新さがウケた。

 

 次作では、さらに原始的なリズムとエレクトロニクスの融合を深めた。しっかりシングルヒットも出して商業的成功も収めた。5作目『So』はこれまでの探求成果をコンテンポラリーなロックで表現、シングル『スレッジハンマー』を大ヒット(全米1位)させ、アルバムも全英1位、全米2位を獲得。知る人ぞ知るアーティストから、世界的な人気アーティストとしての名声を確立した。

 

♪好きな曲

 

I Don’t Remember

ヘビーなギターリフとうねるベース、いびつな残響処理がカッコいいニューウェーブ風ナンバー。

 

 

I Don't Remember

I Don't Remember

 

 

Family Snapshot

静から動、動から静へと曲調が変化する。特にギターの刻みとサックスが被って盛り上がるアグレッシブな動の部分がいい。

 

 

Family Snapshot

Family Snapshot

 

Biko

 

南アフリカの人権活動家スティーブン・ビコに捧げた曲。アフリカ風リズムとゴスペルタッチの歌による厳かな雰囲気が素晴らしい。

 

Biko

Biko