Vol.39 TIN DRUM JAPAN 1981
漂うオリエンタリズム、跋扈する
変態リズム、極北のエレクトロポップ。
錻力(ブリキ)の太鼓/ジャパン
バンドの創造性が臨界点に達した5作目。案の定、ラストアルバムとなった。チャートは全英12位とオリジナルアルバムの中では最もヒットした。
ジャパンの音楽性が高く評価されるようになったのは、3作目の『クワイエット・ライフ』から。それまでは日本で熱狂的な人気はあったものの本国では無視され、まったく売れなかった。
いま聴くと無視されるほどひどくはない。アルバムやシングルの何曲かは悪くはないし、ジョルジォ・モルダーがプロデュースした「Life in Tokyo」なんていいなと思ったこともあった。
ところが『クワイエット・ライフ』から突然覚醒、イギリスでもチャートイン。サウンドもがらりと変わった。70年代のロキシー・ミュージックや、ベルリン時代のディヴィッド・ボウイを思わせる曲調に、シンセを前面に出したスタイルへと変化した。
次作『孤独の影』では、ぐっと音楽に深みと幅が加わる。YMOとの交流も影響したのだろう、ジャパンは急速に力をつけていった。そして、本作で一気に極北までいってしまった。
前作までの陰影のあるヨーロピアン路線から、アフリカなど非西洋世界のサウンドを大きく取り入れた、エレクトロ/テクノポップへと変わった。聴きにくいことはないが、好みのはっきり分かれる作風だと思う。
西洋人の若者が見た文化大革命中の中国というのがコンセプト、確かにオリエンタルな旋律が顔を出しているが、アフリカ、中近東を思わせるリズムもあったりと中国イメージ一色というわけでもない。
ジャパンの隠し味ともいうべきソウル、ファンクのアプローチは健在だが、ダンスミュージックにならないところがあまのじゃく体質の彼ららしい。音数は少ないが、凝ったサウンドで残響が少ないためか妙に圧迫感がある。
バンドの顔であるデヴィッド・シルヴィアンの物憂げな低温ヴォーカルと、独特のリズムによるオリエンタリズムは鮮やかな極採色ではなく、渋い色彩である。
ミック・カーンのフレットレスベースと、スティーブ・ジャンセンの手数の多い、複雑なドラミングから放たれるビートは、英国随一の変態リズムセクションと言われただけのことはある。特に地球外生命体のような動きをみせるベースのフレーズは、ステージ上のミックの動き同様とてもユニークだ。
本作発表の翌年にバンドは解散。ようやくイギリスでも高く評価され、人気上昇の矢先だった。そんな追い風にも目をくれずさっさと店じまい。やはり筋金入りのあまのじゃく。
‘91年にジャパンは、<レインツリー・クロウ>という名で再結成しアルバムを出す。ジャパン時代とは全く違う、アンビエントなルーツミュージック風のサウンドに昔からのファンは困惑したと察するが、僕は気に入ってる。
ニューウェーブ、エレクトロ/テクノポップのシーンにあって、多くの面白いバンドやアーティストが登場したが、創造性と存在感という点で、ジャパンはウルトラヴォックスと共に頭ひとつ抜けていたように思う。
♪好きな曲
The art of parties
パーカッシブなドラムが響くエレクトロファンク。先行シングルよりアルバムバージョンの方ができが良い。
Still life in mobile homes
一番好きな曲。カッコいい変態リズムセクションがたっぷり味わえる。
Visions of china
ドラムはアフリカンで、フレーズはオリエンタルという風変わりなファンク。