Vol.45 CUPID & PSYCHE 85 SCRITTI POLITTI 1985
4曲のヒットシングルを含む、斬新で
ブルーアイドソウルなエレクトロ・ポップ。
キューピッド&サイケ85/スクリッティ・ポリッティ
ソウルへの深い愛と、当時注目され始めていたヒップホップを取り込んだ、斬新で、ダンサンブルなエレクトロ・ポップ。全英5位、全米でも50位と健闘した。
本作が出たとき、スクリッティ・ポリッティのことをデジタル時代のスティーリー・ダンと評した記事を読んだ記憶がある。よくわかる。バンドではなく、ユニットというスタイルで、ライブよりもレコーディングに力を入れるところや、テクノロジーと人力を駆使した緻密なサウンドを作るところとか。
中心人物のグリーン・ガードサイトは、アルバム2作目となる本作に相当に賭けていた。デビューアルバムが出た直後から、大手レーベルのヴァージンへの移籍を進め、理想の音づくりを求めてニューヨークに渡る。
もともとグリーンはブラックミュージックから大きな影響を受けていたし、当時流行りつつあったヒップホップにとても興味をもっていたという。新メンバーのディビッド・ガムソン、フレッド・マーはニューヨーク出身。
当時ニューヨークでは、ビル・ラズウェルのプロジェクトや、ゴールデン・パロミノスなど、テクノやヒップホップを取り込んだエクスペリメンタルなサウンドが生まれていた。
そういう動きにグリーンは刺激を受けたに違いないし、フレッド・マーが、ラズウェルのバンドのマサカー、マテリアルに在籍したことを考えると、グリーンの狙いは明確だった。
1984年アルバムに先駆け、連続でリリースした、シングル「Wood beez」、「Absolute」、「Hypnotize」が大きな注目を集めた。スタイルはエレクトロ・ポップで、中身はブルーアイドソウルだが、ところどころにヒップホップ的なアプローチもみえる。
そこが斬新だった。フェアライトなど当時先端をいっていたエレクトロニクスも使われており、エッジの効いた音響や、グリーンの中性的な歌声は際立っていた。
そして翌年、本作がリリース。セルフプロデュースであったが、数曲を有名なプロデューサー、アリフ・マーディンが手がけた。そのつながりだろうと思うが、マーカス・ミラー、ウイル・リーなど、人気ミュージシャンも起用されている。
先のシングルをはじめ楽曲が充実しており、アルバムも高く評価されヒット。さらにシングルカットされた2曲もヒットした。特に「Perfect way」は全米6位、後にマイルズ・ディビズが取り上げた。
彼らのようなちょっと先をいったスタイルは、賞味期限が長くないのが常である。完全主義で繊細なグリーンのことだから時間がかかったのだろう。次作『プロビジョン』が出たのが3年後。その次が11年後と寡作になっていく。
とはいえ、同時代のロック、ポップスの中でも、個性、クオリティともに頭一つ、二つは抜きんでていたと思うし、楽曲の普遍的な魅力も色あせていない。ここ数年、ニュージャズとかフューチャーソウルといったジャンルから面白い音楽が生まれている。復活するにはうってつけのタイミングだと思うな。
♪好きな曲
Wood beez (Pray like a Aretha Franklin)
一番好きな曲でアレサ・フランクリンへ捧げられている。プロデュースはマーディン。全英10位。
Absolute
これもマーディンがプロデュース。ダンサンブルなエレポップ。全英17位。
The word girl
アルバムからの1stシングル。メロウなメロディとレゲエのリズムが気持ちよい。全英6位。
Vol.44 At Fillmore East THE ALLMAN BROTHERS BAND 1971
ライブで最も真価を発揮する
バンドの圧巻のパフォーマンス。
フィルモア・イースト・ライブ/オールマンズ・ブラザーズ・バンド
バンドの代名詞的作品であり、ライブアルバムの名盤として必ず挙げられ、スタジオ盤が色あせてしまうくらい、迫力あるパフォーマンスを聴くことができる。全米13位。
オールマン・ブラザーズ・バンド(以下、オールマンズ)の真価はライブで最も発揮される。2作目の『アイドルワイド・サウス』も、5種連続の全米1位を獲得した『ブラザーズ&シスターズ』も、楽曲も演奏も素晴らしいし、サザン・ロックの名盤だ。
それでも、迫力と懐の深いインプロビゼーションをたっぷり堪能できるという点で本作の方がはるかに魅力的だ。
すでにオールマンズは、2枚のアルバムを発表し、評価も人気もセールスも上向きであった。しかし、メンバーは自分たちの力を真に証明するにはスタジオ盤では十分ではないと不満を持っていたという。
そこで、3作目はライブ盤を作ることにした。再び名プロデューサートム・ダウドを迎え、伝説的なライブハウスであるフィルモア・イーストで3日間ライブを行い、そこから収録曲を選んだ。
オールマンズはジャムバンドでもある。「僕らにあるのは大ざっぱな編曲だけだ。曲のレイアウトだ。それからバンドのメンバー各自にまかされたソロがあるんだ」とデュエイン・オールマンが言うように、即興演奏が特徴だ。
スタイルはブルーズやカントリーから影響を受けたロックだが、即興性を大切にする。カバーだろうが、オリジナルだろうがそれは一貫している。
しかもツインギターにツインドラムということもあり、演奏はとてもダイナミック。本作ではどの曲も厚みと迫力がある。聴きどころは即興がさえる長尺の曲だ。
有名な「In memory of Elizabeth Reed:エリザベス・リードの追憶」も、人気曲「Whipping post」もスタジオ盤よりかなり長いが、まったくだれない。それどころか、とてもスリリングだ。どちらもデュエインとディッキー・ベッツのギターが素晴らしい。
この2曲はアルバムのハイライトといっていい。個人的にはグルーブのかかったジャムナンバー「Hot’ Lanta」も好きだ。グレッグ・オールマンのオルガンソロがいい。
オールマンズは本作で名実ともにトップバンドの地位をつかんだ。ところが、本作リリース直後、デュエインがオートバイ事故で死去。翌年、追悼盤的な『イート・ザ・ピーチ』(全米4位)を出すが、同年の秋にベースのベリー・オークリーがまたもやオートバイ事故で亡くなる。
新しいメンバーによる『ブラザーズ&シスターズ』は大ヒットしたものの、その後はメンバー間の不和やトラブルにも見舞われ、らしさも輝きも失っていく。
アルバムタイトルに<フィルモア>が付いたライブアルバムがいくつかあるが、たいていライブの名盤である。フィルモア・イーストでは、マイルズ・ディビス、フランクザッパ&マザーズなど。
フィルモア・ウエストでは、アレサ・フランクリン、キング・カーティスなど。すべて聴いたわけではないが、どれも素晴らしかった。
♪好きな曲
In memory of Elizabeth Reed
ロック史に残る名演。ブルーズ、ラテン、ソウルジャズが混然となって突っ走っていく。
Stormy Monday
僕はビリー・ホリディで知ったが、ジャズでなく、ブルーズナンバー。けだるく渋い。
Whipping post
スタジオ盤は5分だが、ここでは22分!ツインギターが縦横無尽に飛び交うさまが圧巻。
Vol.43 Country Life ROXY MUSIC 1974
洗練とえぐみによる様式美が完成、
旬を迎えた人気アルバム。
カントリーライフ/ロキシー・ミュージック
様式美を確立し、成熟期を迎えたロキシーの代表作。楽曲、演奏のクオリティはいちだんと進化した。全英3位。全米チャートでは37位とアメリカでも初のトップ40入り。
『カントリーライフ』は、ロキシーのアルバムの中でも人気の高いタイトルで、『サイレン』とともに、ロキシーがバンドとして最も脂が乗りきった時期のアルバムだ。実際に評価も高く、ローリングストーン誌が選んだ<The 500 greatest album of all time>に選ばれている。
ちなみにロキシーのアルバムでは、本作以外に『アヴァロン』、『サイレン』、『フォー・ユア・プレジャー』が選ばれている。そこまで評価されているとは正直驚いた。で、うれしい。
本作を出す少し前あたりから、ロキシーは人気も実力も上昇中であった。デビュー作、2作目にあった粗削りでアバンギャルドな部分は消えて、楽曲も洗練され、演奏力も向上していた。
3作目『ストランデッド』で初の全英1位を獲得。バンドリーダーのブライアン・フェリィのソロも1作目、2作目とヒットし、やれるという確信も自信もついたのだろう。
サウンドもこの頃から変化も見せた。2作目までいたブライアン・イーノが抜けて、代わりに、才能があって器用なエディ・ジョブソン(後にU.K.を結成してブレイク)が加入したのも影響したし、人気のあったイーノがいなくなり、フェリィがイニシアチブを握れたことも大きかった。
4作目となる『カントリーライフ』は、全英1位こそ逃したものの、前作よりも充実した内容に仕上がった。楽曲の幅が広がり、アンサンブルも緻密になったし、聴きやすさも増した。
ハードロックでもなく、ブルーズロックでもなく、プログレッシブロックでもない、風変わりなスタイルはロキシー独自の様式美として完成されている。
ほとんどの曲はフェリィ作だが、ギターのフィル・マンザネラ、サックス、オーボエのアンディ・マッケイの書いた曲も際立ってよく、この二人無しにはロキシーは成り立たないことがよく分かる。
また、エディ・ジョブソンの貢献も大きい。彼のエレクトリック・ヴァイオリン、キーボードはサウンドに華やかさや厚みをもたらしている。とくに「Out of the blue」でのヴァイオリンソロはみごと。他の曲でもストリングスで彩りを加えている。
本作はアメリカでもはじめてトップ40入りしたわけだが、アメリカンロックのような「Prairie rose」や「If it takes all night」、ファンクのような「Casanova」といった曲が受けたかもしれない。とはいえ、ロキシーらしい解体と再構築のアプローチによる、<~のような>フェイクなテイストはしっかり出ている。
次作『サイレン』を出した翌年の’76年に、ロキシーは解散。’79年に再結成するが、そこからのロキシーはバンドというよりユニットという印象で、サウンドも大きく洗練されていく。そんな完熟ロキシーも大好きなのだが、個人的にはえぐみのある美意識をたたえた本作の頃のロキシーに最も愛着を感じる。
♪好きな曲
Out of the blue
ライブの定番曲。ライブ盤『Viva ! Roxy Music』でのバージョンはスリリングでカッコいい。
The thrill of it all
ロキシー流ハードなロックンロール。ジョブソンのヴァイオリンがいい具合に音に厚みをつけている。
Prairie rose
マンザネラ作のファンキーなナンバー。めずらしくスライドギターが鳴っている。
Vol.42 Court And Spark Joni Mitchell 1974
淡い色彩と浮遊感。ジャズ、
フュージョン時代の最高作。
コート・アンド・スパーク/ジョニ・ミッチェル
ジョニの創造性が、ジャズ、フュージョンの名手たちによって大きく飛躍した。全米2位、64週もチャートインした傑作で、彼女のアルバムの中で最もヒットした。
6作目となる『コート・アンド・スパーク』は、いわゆるジョニ・ミッチェルのジャズ、フュージョン時代の幕開けとなるアルバムである。フォーク時代と比べると、音の色彩感が華やかになった。ただし、くっきりとした原色ではなく、淡い彩り。
彼女の音楽の特徴として、よく言われるのが浮遊感である。ふわりとした感触、風に乗ってゆっくりと飛んでいくような。それを具体化しているのが独特のコード進行だ。
彼女はギタリストとしては、変則チューニングの名手と評され、変わった(しばしばジャズ的と表現される)コード感を生み出す。メロディもコードに呼応するように作られ、結果として浮遊感のある音がつむがれる。
初期のフォークスタイルでは、表現を最大化するには不十分だとジョニ本人も思っていたようで、「私の音楽はあまりに風変わりだったので、彼ら(ロックミュージシャン)には演奏することができなかった」
「私のハーモニーはよく奇抜だっていわれた。あまりにポリフォニックだって。彼らはそうしたコードをどう弾いたらいいかどうしても理解できなかった」と述べている。
そこでジョニは、本作からジャズ、フュージョンのミュージシャンを全面起用し、新たな世界を開こうとした。もくろみは見事に成功し、アルバムもシングルも大ヒットした。
参加ミュージシャンは、トム・スコット率いるL.A.エキスプレス、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンらクルセイダースの面々。特にトム・スコットがプレイヤーとしても、アレンジャーとしてもよい仕事をしている。ホーンのアレンジが本当に素晴らしい。
ジョニの歌声と浮遊感を際立たせるため、演奏は抑制を効かせているが、ちょっとしたソロやオブリガートがこの時代のフュージョンらしく気持ちよい。あまり言われないが、ジョニの歌声も魅力的だ。やさしく澄んだ音色がすっと入ってくる感じが好きだ。
大ヒットシングル「Help me」はこの時点で、最も理想を表現できた曲であったと思う。彼女らしいギターのストロークをバックの演奏が心地よく乗せていく。
軽快なリズムにジョー・サンプルのエレピや、ラリー・カールトンのギターが彩る。ソウルっぽいコーラスも素敵なアクセントになっている。そしてトム・スコットのホーンが中盤(1分40秒あたりから)から曲を盛り上げる。徐々に飛行高度を上げていくような雰囲気がすばらしい。パーフェクトなアレンジだ。
ジョニは画家でもあり、映像作家でもある。それが影響しているのだろう。音楽についても、彼女の私小説的な世界、心象風景にあわせて、絵筆のようなタッチで繊細に歌を描いていく。
やはり、カナダ生まれのシンガーソングライターの感性や美意識は独特だ。レナード・コーエン、ニール・ヤングしかり。
♪好きな曲
Help me
浮遊感と軽やかなグルーブが気持ちいい。シングルカットされ全米7位。
Free man in Paris
Help meと似た感じ。ライブ盤『Shadows and light』でのバージョンも素晴らしい。シングルは全米22位。
Down to you
ジョニによるピアノの弾き語り。美しいストリングスとホーンのアレンジは、彼女とトム・スコット。
Vol.41 BREAKFAST IN AMERICA SUPERTRAMP 1979
世界中で売れまくった、
プログレ系ポップ。
ブレックファスト・イン・アメリカ/スーパートランプ
4週連続で全米1位を獲得。アメリカだけでも400万枚を売り上げ、ヨーロッパ、オーストラリアでも大ヒット、世界で1800万枚も売れた。本国イギリスでは3位。日本でもCMに曲が使用され、オリコン年間チャート29位とヒットした。
スーパートランプのサウンドを分かりやすくいうと、プログレッシブ・ロックをぐっとコンパクトにして、大げさな展開や冗長なインストパートを無くして、親しみやすくした感じ。いうなれば、プログレ系ポップ。
'70年代の半ばになるとイギリスでは、そういうタイプのバンドが出てくる。有名なところでは、アラン・パーソンズ・プロジェクト、ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)、10CC。中期のクイーンも入れてもいい。
スーパートランプは、ロジャー・ホジソンとリック・デイビスという優れたソングライター、プレイヤーの双頭バンドだ。ウーリッツァのエレピが全面に出た、哀愁とドラマティックなサウンドが持ち味。
面白いのは、ホジソンとデイビスの書く曲が対照的なことだ。ホジソンは、シンガーソングライター然とした、弾き語りでも似合う曲が得意だ。エルトン・ジョンやギルバート・オサリバンのような憂いを含んだ曲はいかにも英国的といっていい。
デイビスはR&Bからの影響を感じさせる、アレンジで魅力を輝かせる曲作りが得意だ。曲のクレジットは、ホジソン・デイビズとなっているが、たいていメインライターがリードヴォーカルをとることが多い。ホジソンの歌声はハイトーンなので分かりやすい。
ヒットしたシングルはホジソン作が多い。本作からは4曲がシングルカットされたが「Logical song」(全英7位、全米6位)、「Breakfast in America」(全米10位)、「Take the long way home」(全米10位)と3曲がホジソン作。
デイビスの「Goodbye stranger」もよい曲だと思うのだが、全米15位、全英57位。ホジソンの曲の方が親しみやすく、シングル向きなんだろう。
スーパートランプの人気が高まりだしたのは、3作目『CRIME OF CENTURY』から。この時はまだプログレッシブ・ロック色は濃い。なかなか楽曲が充実して傑作である。
それでもサウンドは徐々に親しみやすさを増し、プログレッシブ色は少なくなっていく。本作でも基本的なスタイルは変わっていないが、ポップ度は高い。そこがヒットの理由だろう。
とは言え、なぜこうもアメリカで大ヒットしたのか。楽曲が良いのは分かるが、サウンドが急に変わったわけでもない。当時は、中庸の美学をもったフリードウッド・マックが人気を博しており、ロックでも軽さや親しみやすさが受けた時代だったのかもしれない。
さらにアルバムタイトルや楽曲に<アメリカ>、<ハリウッド>といったアメリカに関する言葉が使われているし、あの一度見たら忘れられないアルバムジャケット(ジャケットデザインはグラミー賞受賞)のアメリカをイメージしたユーモアも影響したのではないか。
ビートルズが解散しなかったらこんな感じになっていたかもと友人が言ったのが印象的で、ビートルズ各自のソロ活動から考えると、言いえて妙だなと思ったものだ。
♪好きな曲
The logical song
ボードビル調の曲で、デイビスはこの曲が気に入らなかったらしい。
Goodbye stranger
デイビスには珍しくシンプルで親しみやすい。ホジソンに対抗したか。
Lord is it mine
ホジソンらしい美しいメロディのバラード。
Vol.40 Stand ! SLY & THE FAMILY STONE 1969
ファンクであり、ロックでもある、
愉快なブラックミュージック。
スタンド!/スライ&ザ・ファミリー・ストーン
ソウル、ファンク、ロックが絶妙に交じり合ったスライ流ブラックミュージックが開花、名曲ぞろいでグループの出世作となった。200万枚ものセールスを記録し、全米13位。2年間もチャートインした。
スライ&ザ・ファミリー・ストーン(以下、スライ)の面白さは、ブラックミュージックの中にあっても、真っ黒でないことだ。
ファンクでありながら、ロックでもあったりする。他のファンク、たとえばジェイムズ・ブラウンと聴き比べてみるとブラックの濃度が違う。スライは白人のロックやポップスみたいな部分もあり、ブラック一辺倒ではなく、グラデーションがかかっている。
このグループが黒人白人、男女、家族と他人の3つのレイヤーを持った混成であること。そして、さまざまな人種と異文化を飲み込んだベイエリア、サンフランシスコで生まれたということがそうさせたかもしれない。
そんなバックグラウンドから生まれた、ユニークなスタイルが開花したのが本作『スタンド!』だ。はじめてのシングル全米1位「Everyday people」をはじめ「Stand!」「I want to take you higher」「Sing a simple song」といったソウル、ファンクの名曲が揃っている。
ポップなメロディ、キレのよいリズム、いかしたホーン、男女リレーで歌うヴォーカル、ゴスペルを思わせるコーラスがみごとに溶け合った、愉快でカッコいいアンサンブルは、スライ流としか言えないスタイルだ。
歌には、'69年という時代らしく、<立ち上がろう!>、<ニガーって呼ぶなホワイティ>、<黒人だからといってあきらめずに>…など強くポジティブなメッセージが盛り込まれている。社会を敵視しているわけでもなく、シニカルな部分はあるものの攻撃的でもない。
パワフルなファンクもあるが、ソフトロックのような曲もある。このへんが黒人白人混成グループらしい。また、エレクトリック時代のマイルズ・ディビスを思わせる13分ものジャムナンバーもあって、スライの面白さがつまった作品に仕上がっている。
前作のセールス不振をばん回するべく、音楽理論やオーケストレーションの本を手に、レコーディングに取り組んだだけのことはあった。
その後、スライはウッドストックへの出演、シングルヒット(全米1、2位)連発と快進撃をみせたが、ドラッグによるスライ・ストーンの不調やコンサートのキャンセル頻発などトラブルが続いた。
それでも、'71年には大傑作アルバム『暴動』(全米1位)を発表。このあたりをピークに、スライ・ストーンの創造性は輝きを失い、アルバムセールスも下降気味となり失速していく。
やがてグループも解散、スライ・ストーンは真の復活を遂げていない。それでも、マイルズ・ディビスやプリンスなど、さまざまなアーティストに影響を与えたし、本作の歌詞は、寛容性や多様性を失いつつある、いまの世界にも響くかもしれない。
いや、そんなことはどうでもいい。楽しくて面白い音楽なのだ。聴かないのはもったいない。
♪好きな曲
Stand!
2分16秒からのファンキーなコーダがあったからこそ名曲となったと言われる。
I want to take you higher
ファンクにしてロック。強烈なカッコよさ。デュラン・デュランのカバーもなかなか。
僕は普通の人間、人は千差万別、みんな共存しているという楽観的な歌詞が軽快な曲調とぴったり。
Vol.39 TIN DRUM JAPAN 1981
漂うオリエンタリズム、跋扈する
変態リズム、極北のエレクトロポップ。
錻力(ブリキ)の太鼓/ジャパン
バンドの創造性が臨界点に達した5作目。案の定、ラストアルバムとなった。チャートは全英12位とオリジナルアルバムの中では最もヒットした。
ジャパンの音楽性が高く評価されるようになったのは、3作目の『クワイエット・ライフ』から。それまでは日本で熱狂的な人気はあったものの本国では無視され、まったく売れなかった。
いま聴くと無視されるほどひどくはない。アルバムやシングルの何曲かは悪くはないし、ジョルジォ・モルダーがプロデュースした「Life in Tokyo」なんていいなと思ったこともあった。
ところが『クワイエット・ライフ』から突然覚醒、イギリスでもチャートイン。サウンドもがらりと変わった。70年代のロキシー・ミュージックや、ベルリン時代のディヴィッド・ボウイを思わせる曲調に、シンセを前面に出したスタイルへと変化した。
次作『孤独の影』では、ぐっと音楽に深みと幅が加わる。YMOとの交流も影響したのだろう、ジャパンは急速に力をつけていった。そして、本作で一気に極北までいってしまった。
前作までの陰影のあるヨーロピアン路線から、アフリカなど非西洋世界のサウンドを大きく取り入れた、エレクトロ/テクノポップへと変わった。聴きにくいことはないが、好みのはっきり分かれる作風だと思う。
西洋人の若者が見た文化大革命中の中国というのがコンセプト、確かにオリエンタルな旋律が顔を出しているが、アフリカ、中近東を思わせるリズムもあったりと中国イメージ一色というわけでもない。
ジャパンの隠し味ともいうべきソウル、ファンクのアプローチは健在だが、ダンスミュージックにならないところがあまのじゃく体質の彼ららしい。音数は少ないが、凝ったサウンドで残響が少ないためか妙に圧迫感がある。
バンドの顔であるデヴィッド・シルヴィアンの物憂げな低温ヴォーカルと、独特のリズムによるオリエンタリズムは鮮やかな極採色ではなく、渋い色彩である。
ミック・カーンのフレットレスベースと、スティーブ・ジャンセンの手数の多い、複雑なドラミングから放たれるビートは、英国随一の変態リズムセクションと言われただけのことはある。特に地球外生命体のような動きをみせるベースのフレーズは、ステージ上のミックの動き同様とてもユニークだ。
本作発表の翌年にバンドは解散。ようやくイギリスでも高く評価され、人気上昇の矢先だった。そんな追い風にも目をくれずさっさと店じまい。やはり筋金入りのあまのじゃく。
‘91年にジャパンは、<レインツリー・クロウ>という名で再結成しアルバムを出す。ジャパン時代とは全く違う、アンビエントなルーツミュージック風のサウンドに昔からのファンは困惑したと察するが、僕は気に入ってる。
ニューウェーブ、エレクトロ/テクノポップのシーンにあって、多くの面白いバンドやアーティストが登場したが、創造性と存在感という点で、ジャパンはウルトラヴォックスと共に頭ひとつ抜けていたように思う。
♪好きな曲
The art of parties
パーカッシブなドラムが響くエレクトロファンク。先行シングルよりアルバムバージョンの方ができが良い。
Still life in mobile homes
一番好きな曲。カッコいい変態リズムセクションがたっぷり味わえる。
Visions of china
ドラムはアフリカンで、フレーズはオリエンタルという風変わりなファンク。