Vol.24 “HEROES” David Bowie 1977
ボウイ史上、最強のメンバーと
創り上げたロックは、ダークでアグレッシブ。
ヒーローズ/デイビッド・ボウイ
名作『ロウ』に続く、ベルリン時代の2作目。名曲「Heroes」を収めた、ダークで切れのあるサウンドがすこぶるカッコいい!完成度では前作を上回っている。全英3位、全米35位。
はじめて買ったボウイのレコードだ。その時の邦題は「英雄夢語り」。個人的な好みもあるが、ボウイが一番カッコよかった時代の、一番カッコいいアルバムだと思っている。
まずジャケットがカッコいい。鍬田正義(ボウイを撮り続けてきた名写真家)の撮影によるボウイは、地球に落ちてきた宇宙人、あるいはヴァンパイアのような、神々しさと禍々しさを放っている。奇妙なポーズは、ボウイの好きなドイツ表現主義の画家の絵をヒントにしたという。
サウンドもカッコいい。アルバムは、鋭く硬質なロックと前衛的なインストゥルメンタルで構成されている。冷戦下のベルリン(壁の近くのハンザ・スタジオ)で録音しただけあって、当時の緊迫感が作風にも伝染している。
そして、ボウイの中でも1,2位を争う名曲、ロックのクラシックでもある「Heroes」が入っている。”英雄になれるんだ、たった1日だけならね”と歌うボウイ。ロックンロール調のリフに乗って鳴り続けるブライアン・イーノのアンビエントなシンセと、ロバート・フリップのサステインの効いたギターによる響きが素晴らしい。
『ヒーローズ』は、ベルリン2部作(たまに3部作)の2作目である。前作までのアメリカ時代(ブラックミュージックへのアプローチ)に一区切りをつけたボウイは、新たな創造の場として、ベルリンを選び、『ロウ』と『ヒーローズ』を制作した。
プロデュースは、唯一ボウイをコントロールできる男、トニー・ヴィスコンティ。バンドメンバーは、アメリカ時代の手練れのメンバーが主体だが、前作に引き続き、ブライアン・イーノ、それにキング・クリムゾン(当時は解散)のロバート・フリップが参加した。ボウイ史上、最強のメンバーといっていい。
後の影響力という点では『ロウ』の方が評価は高い。しかし、充実度とクオリティではだんぜん『ヒーローズ』だ。ボウイのひらめきなのか、バンドの一体感なのか、前作以上にヨーロッパ色の強い、エッジの効いたサウンドはじつに堂々としている。
2013年1月、突如ボウイは新曲を、3月にはアルバム『The Next Day』(全米2位、全英1位)をリリース。10年ぶりの復活である。その内容は『ヒーローズ』を思わせ、21世紀の名盤を予感させた。
驚いたのはジャケットのデザイン。それは、『ヒーローズ』の上に、白い紙を貼ったようなデザインだった。そこにタイトルのThe Next Dayと記されている。過去を乗り越え、次に向かうというのがデザイナーのコンセプトらしい。ボウイ本人は何も語ってないが、『ヒーローズ』はボウイにとって、それほど重要な意味を持つ作品なのだ。
♪好きな曲
Heroes
ヒーロー讃歌でもなく、変革を訴えるわけでもないが、なぜか力がわき上がってくる不朽の名曲。オアシス、ニコ、キング・クリムゾン、ピーター・ゲイブリエルもカバー。
Beauty and Beast
オープニングナンバーにふさわしく、ボーカルやギターの音響の仕掛けがカッコいい、シャープなロックンロール。Heroesと甲乙つけがたい傑作。
V-2 Schneider
当時、ボウイが影響を受けたクラフトワークのフローリアン・シュナイダーに捧げたインストナンバーで、テクノ前夜を感じさせるサウンド。
Vol.23 Stop Making Sense Talking Heads 1984
絶頂期の自信と勢いが
みなぎった、ファンキー大宴会。
ストップ・メイキング・センス /トーキング・ヘッズ
トーキング・ヘッズの代表作といえば、『リメイン・イン・ライト』(全米19位)だ。ロックの名盤でもある。でも、個人的な意見でいうと、あれはヘッズのディスコグラフィーの中でも異色作だと思う。
カッコいい部分もあるのだが、はじめてヘッズを聴く人におススメの作品かというと少し躊躇する。その点、『ストップ・メイキング・センス』は入門盤にうってつけだ。
ライブ盤ではあるが、主な代表曲は入っているし、この時期のヘッズは『リメイン・イン・ライト』での経験が上手く昇華され、バンドはピークを迎えており、その勢いと自信がパフォーマンスにみなぎっている。
『ストップ・メイキング・センス』は、ヘッズのライブドキュメンタリー映画『ストップ・メイキング・センス』のサウンドトラックでもある。この映画は、83年のツアーを撮影したもので、監督は後に『羊たちの沈黙』で名を馳せることになるジョナサン・デミである。
映画『ストップ・メイキング・センス』は、素晴らしい音楽映画で、日本で公開された時も結構話題になった気がする。僕もその評価につられて渋谷パルコで観たのだが、噂に違わず感動したものであった。
ヘッズのパフォーマンスはもちろん、舞台演出はアートスクール出身のバンドらしく斬新であったし、それらをカッコよく映した撮影もよかった。だからできれば映像で観てほしい。(YouTubeで観られる)。
もちろん、音だけでも十分素晴らしい。ここでのヘッズはファンクバンドである。ヘッズの面白さは、ポストパンクのバンドらしい実験精神と、ファンクやソウルをこねくりまわして作った、ぎくしゃくした先鋭的サウンドだ。
ところが、この時期のライブでは、バンドメンバー以外に『リメイン・イン・ライト』にも参加したメンバーが参加、しかもすべて黒人ミュージシャンで9名編成という大所帯となった。
おかげで、ぎくしゃくした部分が後退したものの、グルーブは強まった。ロック、エレクトロポップ、ソウルといったタイプの曲が繰り広げられるわけだが、いずれもファンキーでダイナミックだ。
デヴィッド・バーンが一人ギター(とラジカセ)で「Psycho Killer」を歌うというミニマルな出だしだが、曲が進むごとにメンバーが加わり、熱量もぐんぐん上昇する。
1983年のヒットアルバム『スピーキング・イン・タングス』(全米15位)からの大ヒットシングル「Burning down the house」(全米9位)あたりで、テンションは一気呵成に増幅されファンキー度がアップ。『リメイン・イン・ライト』からのシングル「Once in a lifetime」、「Crosseyed and painless」も、スタジオ盤より迫力がある。
映画が高評価だったわりには、アルバムは全米41位と振るわなかったが、これもヘッズの代表作であり、80年代アメリカンロックの屈指のアルバムと言っていい。現行のCDは完全版で全16曲(オリジナルは全9曲)なので、完全版がおススメ。
♪好きな曲
Take Me To The River
78年発表の2ndアルバムからのヒットシングルで、アル・グリーンのソウル名曲のカバー。ライブの方がテンポも速くファンキー。
Girlfriend Is Better
バーンが大きなスーツを着て変なダンスを踊る、日本のCMでも使用された、ファンキーなエレクトロポップ。
What a Day That Was
バーンとブライアン・イーノのコラボアルバム収録の曲。グルーブが増幅している。
Vol.22 Gonna Take A Miracle Laura Nyro and LABELLE 1971
甘美でエモーショナル、歌う歓びに
あふれた珠玉のソウルカバー集。
ゴナ・テイク・ア・ミラクル/ローラ・ニーロ&ラベル
自作曲で勝負するシンガーソングライターが、シンガーに徹した全曲カバーのアルバムが一番なんて、失礼な気もするが、ローラ・ニーロのファンであればあるほど、このアルバムが一番好きなのではないかと密かに思っている。
なにしろ、すべてが素晴らしい。ローラの歌声は甘美でエモーショナル。サウンドもロマンティックだ。全米46位、シングルも103位とチャートこそ、いまひとつ振るわなかったが、長く愛さずにはいられない気を起こさせる。
ローラは、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェルと同時代に活躍した女性シンガーソングライターである。1967年、19歳でデビュー。早熟の天才肌ではあるが、他の二人に比べると、誰もが知っている有名曲、ヒットアルバムがないために、一般的には知名度は低い。
とは言え、68年から70年初期にかけて、彼女の曲はフィフス・ディメンションやブラッド・スエット&ティアーズといった当時の人気アーティストに数多く取り上げられた。大ヒットしたものもあり、ソングライターとしての活躍は申し分ない。
このアルバムでカバーされた曲は、今から見れば、ソウルの名曲ばかり。ローラが少女時代、ブロンクスやマンハッタンのストリートで友人たちと歌っていた、お気に入りの曲も入っているようだ。
「その部屋にピアノが置いてあったとしたら、わたしはピアノの前に座り、あのアルバムに収められている曲を歌いだすと思う。それくらい好きな曲ばかりなの」と『ゴナ・テイク・ミラクル』について聞かれたインタビューで語っていたくらいだ。そのせいか、歌の録音はすべてワンテイクでOKだった。
冒頭の軽快なアカペラから、甘美なバラード「The Bells」へのくだりで心をつかまれ、いつのまにか引き寄せられてしまう。バラード、アップテンポのナンバー、アカペラがほどよく散りばめられており、楽しく穏やかな聴き心地のするアルバムだ。
そうした雰囲気は、プロデューサーのケニー・ギャンブルとレオン・ハフ、アレンジャーのトム・ベルによるものが大きい。彼らは数年後に、スイートなソウルがトレードマークの洗練されたフィリー・サウンド(フィラデルフィア・ソウル)のムーブメントを作るチームである。
ところで、このアルバムはローラ単独ではなく、ラベルと共同になっている。ラベルは、60年代から人気のガールズグループである。彼女たちの時に力強く、時にエレガントなコーラスがローラの声に寄り添い、サウンドを決定づけている。
きっとローラは自分ひとりではなく、ラベルと一緒に歌うことで、ローラ&ラベルというガールズグループのつもりで歌い楽しんだのではないかと思う。少女の頃に戻ったような気持ちで、大好きな歌を、大好きな仲間たちと歌うことができた。『ゴナ・テイク・ミラクル』は、そんな歓びがいっぱいにつまっている名盤だ。
♪好きな曲
The Bells
オリジナルズが70年にヒットさせた美しいバラード。作者の1人がマービン・ゲイ。ローラは表現豊かに歌う。
Jimmy Mack
マーサ&ヴァンデラスの67年のヒット曲。軽快に弾むローラの歌声とピアノに思わず手拍子をしたくなる。
It’s Gonna Take A Miracle
ロイヤレッツ、1965年のヒット曲。歌われるのは別れた恋人への未練と恨みだが、そうは思えないほど、ロマンティックな雰囲気。
Vol.21 Nothing Like The Sun Sting 1987
シリアスな歌詞だが、ジャズやラテン音楽なども
取り込んだサウンドはエレガント。
ナッシング・ライク・ザ・サン/スティング
ジャズやワールドミュージックのテイストを巧みに取り込み、コンテンポラリーなロックに仕上げたソロ2作目。全英1位、全米9位、驚くことに日本でもオリコン1位を獲得した。
‘84年、ポリスが活動を休止する。しかしスティングは早くも翌年にソロ1作目『ブルータートルの夢』をリリース。アルバムは、ポリスのポの字も感じさせないものであったが、全米2位、全英3位と大ヒット。シングル「セット・ゼム・フリー」も全米3位となった。
その成功に確信を持ったのだろう。ソロ2作目の今作も1作目と同じ路線。前作は若手のジャズミュージシャンを起用したバンドスタイルで臨んだわけだが、2作目は、前作より多彩な楽曲が揃ったこともあって、ゲストミュージシャンを多数擁してのサウンドとなった。主だったところでは、エリック・クラプトン、マーク・ノップラ‐、アンディ・サマーズが参加している。
といっても、核になるのは前作にも参加した、ブランフォード・マルサリス、ケニー・カークランド。それにマヌ・カッチェ、ミノ・シネリ。前作ではベースをギターに持ち替えたスティングは、今作ではベースを弾いている、カッチェはピーター・ゲイブリエルのバンドで注目されたドラマーで、シネリはマイルス・デイビスのバンドにも参加したパーカッショニスト。
アルバムの雰囲気は開放的だが、冬や晩秋の朝の空気のような、ひんやりとした清々しさが通底している。楽曲のタイプは様々だが、派手さや大げさなとこはなく、引き締まった感がある。スティングらしい陰りのあるメロディは健在で、レゲエ、ボサノバ、ジャズからの影響を感じさせる。
内省的、社会性のある歌詞が目立つが、サウンドは端正で抑えられたトーンもあって、印象はエレガント。また、カッチェのキレのあるドラム、ミノのパーカッションのおかげで、躍動感や色彩感はくっきりしている。ブランフォードのサックスも前作以上にサウンドのテクスチャーを決定づけ、エレガントな雰囲気にひと役買っている。
前作のように、大きなシングルヒットはなかったが、楽曲の充実度ではこちらの方が優れていると思う。個人的にも2作目の方が好み。
日本のCMでも使われた「Englishman In New York」や「We’ll Be Together」といった人気曲をはじめ、人権について歌った、美しいメロディの「They Dance Alone」、ジミ・ヘンドリックスのカバーで、スケール感のある「Litle Wing」など聴きどころが多い。
しかし、この路線は今作で終わる。次作『ソウル・ケージ』はロック色の強い、渋いアルバムとなった。個人的にはここまでくらいが一番良かったと思う。近年はクラシックへ接近しているが、もともとジャズの素養のある人なので、新進気鋭のジャズミュージシャンとのコラボなどやってほしいなと思っている。
♪好きな曲
The Lazarus Heart
浮遊感のあるリズムとサックスが気持ちイイ。南米を思わせる開放的なメロディの明るい曲。
They Dance Alone(Gueca Solo)
チリの独裁政権による投獄や拷問への批判が歌われるが、哀しみ一辺倒でなく、終盤の軽快なサンバ調の展開に希望を感じる。
Little Wing
巨匠ギル・エバンズのジャズ・オーケストラを迎えての演奏。多くのカバーがあるが、割と名演が多い印象で、このカバーもカッコいい。
Vol.20 Songs In The Key Of Life Stevie Wonder 1976
名曲、ヒット曲がたっぷり、
神がかった絶頂期の総決算。
キー・オブ・ライフ/スティーヴィー・ワンダー
神がかっていた、と言われる70年代のスティーヴィーの総決算的アルバム。全米No1シングルをはじめ、代表曲がそろった充実の内容。レコード盤では2枚組(4曲入りEP付)、全21曲というボリュームながら、全米1位。グラミー賞アルバム・オブ・ザイヤー、ベスト・プロデューサー・オブ・ザ・イヤーも獲得した。
70年代に入ってからスティーヴィーは、自らプロデュース、作曲、演奏に取り組み、それまでのシンガーという位置からスケールアップしようとしていた。そうした創造への飽くなき意欲と才能が相乗したのだろう、スティーヴィーは神が降りてきたかのごとく、驚異的なペースでアルバムを制作した。
72年の『心の詩』、同年の『トーキング・ブック』(全米3位)、‘73年の『インナーヴィジョンズ』(全米4位、グラミー賞最優秀アルバム)、’74年の『ファースト・フィナーレ』(全米1位、グラミー賞最優秀アルバム)といずれも、高い評価を受け、商業面でも大成功をおさめた。
『キー・オブ・ライフ』は、そんな70年代の総仕上げであり、スティーヴィーのピークを示す内容となった。楽曲も彼らしく、ソウル、ファンクだけでなく、サンバ、ボサノバなどラテン、ポップスとさまざまなタイプが並んでいる。この多様性はスティーヴィーならではのものだ。
ブラッシュアップされていない曲もあって、玉石混交といわれるが、それでも玉にあたる曲の出来ばえが素晴らしいので、石もあまり気にならない。
スティーヴィーに珍しく、出だしは地味だが、4曲目のグルーブなインストを挟んで、当時、日本の歌謡界でも人気で、キャンディーズもカバー(僕はピンクレディーのライブ盤で知った、それがスティーヴィーとの出会い)したヒット曲「Sir Duke」と、ファンクナンバー「I Wish」が続くあたりになると、熱量が上がってくる。ボッサ調のリズムとオルガンソロが気持ちよい「Summer Soft」は隠れた名曲という印象で好きな曲、でも1枚目はやや地味。
2枚目は「Isn’t She Lovely」ではじまる。多幸感のあるメロディとハーモニカソロがいい。スティーヴィーのハーモニカはいつも素敵だ。シングルカットされた「As」や「If It’s Magic」は、メロディメイカーとして本領を発揮。サンバのグルーブとコーラスが熱い「Another Star」は問答無用のカッコよさ。名曲だらけ、実に聴きごたえのあるアルバムである。
80年代に入ると、日本でもCMに登場して、親しみのある黒人のポップス歌手と受け止められていた印象があったが、70年代のスティーヴィーは、シンセサイザーとレコーディング技術という、新しい武器を存分に使いこなす、天才クリエイターだった。
今から考えても、この時期が絶頂期。一度は聴いて欲しい。当時、2枚組なので高校生の自分には高価だったが、無理して小遣いをはたいて買った。いっぺんに聴くともったいないので、数曲づつ聴いていたものだ。はぁ、貧乏くさい。
♪好きな曲
Isn’t She Lovely
邦題「可愛いアイシャ」。アイシャはスティーヴィーの愛娘。いつまでも聴いていたいようなメロディ。
Another Star
8分以上の長尺を感じさせない、高揚感たっぷりのリズムとコーラスがきまっているサンバファンク。
I Wish
邦題は「回想」、全米1位。パンチのあるブラスと当時は短音しか出ないシンセを重ねて作ったグルーブがカッコいい。ドラムはスティーヴィー。
Vol.19 Revolver The Beatles 1966
革新的なスタジオワークから生まれた、
創造性あふれる意欲作。
リヴォルバー/ビートルズ
レコーディングバンドに生まれ変わったビートルズの新たな一歩は、進化したソングライティングと革新的なスタジオワークが融合、彼らのアルバムの中でも、ひときわクリエイティビティを感じさせる作品となった。
デビューして3年、同じようなツアーの繰り返し、慌ただしいレコーディングに追われていたビートルズは、アーティストとしての成長を自覚しながらも、それを発揮する機会が与えられず大きな不満を抱えていた。
‘65年12月に『ラバー・ソウル』をリリースし、イギリスツアーを終えると、はじめて3カ月という長い休暇をとる。そして翌年4月、溜まっていた不満を発散するかのようにレコーディングを開始。わずか2か月で16曲を仕上げた。そのうち14曲が『リヴォルバー』に収められた。
彼らの新しいサウンドは、当時の技術では、ライブでの再現が不可能なものばかり。それはレコーディングバンド、ビートルズとしてのスタートを意味した。
『リヴォルバー』は随所にギミックが仕掛けられたサウンドに仕上がった。ギターやヴォーカルの逆回転、テープ処理によるループや速度の変更などにより、それまで聴いたことがない音が生まれたのだ。
ビートルズの遊び心ある実験を支えたのは、ジェフ・エメリック(当時まだ20歳!)、ケン・タウンゼントという若きエンジニアたち。彼らはビートルズの無茶?な要求に斬新なアイデアとテクノロジーで応えた。こうしたトライは次作『サージェントペパーズ~』で大いに発揮される。
むろん、ビートルズのソングライティングも演奏も冴えわたっていた。当時、ドラッグカルチャーに影響を受けたジョンは、先鋭的な曲づくりに挑み、ポールはメロディメーカーとしてますます磨きのかかった曲を生み出し、ジョージの曲がはじめて3曲も採用された。
また、はじめてゲストミュージシャン(ストリングスやホーン)を起用したことで、アレンジが多彩になり、さまざまスタイルの曲が揃った。実験的ともいえるギミックを多用しているにもかかわらず、ポップな感じに仕上げてくるところは、さすがだ。(後にこの路線は10ccが受け継ぐ)
ビートルズ流ファンクの「タックスマン」から、いきなり歌とストリングスで始まる「エリナ・リグビー」。この冒頭の流れを聴いただけでも、『リヴォルバー』がこれまでとは違うことを予感させる。最後のループを駆使したサイケな「トゥモロー・ネバー・ノウズ」まで、次々と創造性に富んだ、新しいビートルズサウンドが繰り広げられ、予感が確信に変わる。
先行シングルの「ペイパーバックライター」、「レイン」が収録されていたら、もっと評価が上がっただろう。全米、全英ともに1位。21世紀の今からフラットに見つめても、『リヴォルバー』は、次作『サージェントペパーズ~』ほど時代を感じさせないし、言われるほどサイケでもない。その分、経年を感じさせず、飽きない。時が経つほどそう思える名盤だ。
♪好きな曲
Tomorrow Never Knows
逆回転、テープループ、コラージュが駆使されまくっているのにポップな聴き心地、このカッコよさといったら!
And Your Bird Can Sing
なぜか胸がキュンとなるイントロのギター。初期ビートルズらしいナンバー。
Here,There And Everywhere
ポールらしい美しいメロディとコーラスが印象的。ビーチ・ボーイズの「God Only Knows」に触発されて作ったらしい。
Vol.18 Silk Degrees Boz Scaggs 1976
ソウルをまろやかな甘さで包み、ロックで
仕上げた都会的なブルー・アイド・ソウル。
シルク・ディグリーズ/ボズ・スキャッグス
70年代のブルー・アイド・ソウルの名盤だ。ソウルやアメリカ南部R&Bの渋味を、まろやかな甘さで包み、ロックのスタイルで表現した、都会的なアダルト・コンテンポラリー・サウンド。ボズの6枚目のアルバムにして出世作、ダブルプラチナ・ディスク、全米2位と大ヒットした。
ボズ・スキャッグスは面白い音楽性の持ち主だなと思う。筋金入りのブラックミュージックやR&Bフリークにもかかわらず、それらの音楽の魅力ともいえる渋味や土臭さといった灰汁をストレートに出したがらない。
ヴォーカルも、ソウルフル、たとえばジョン・コッカーやロバート・パーマーのような迫力あるスタイルではない。声も歌い方もマイルドだ。
アルバムを出す度にサウンドは、徐々に渋味が消え、まろやかさや甘みが増していった。泥臭くない都会的な、ところどころキラキラした大人向けのロックへと洗練されていった。もっともそれは白人によるソウルというブルー・アイド・ソウルの特徴でもあるのだが。
日本ではボズといえば、「We’re All Alone」、「Harbor Light」という美しいメロデイのバラードを歌っているポップス歌手という印象だが、本質は都会的なセンスを持つブルー・アイド・ソウルのアーティストだ。そんな彼の資質が大きく実ったのがこの『Silk Degrees』である。
アレンジャーと共作にディヴィッド・ペイチに迎え、ジェフ・ポーカロとディヴィド・ハンゲイトなど手練れを迎えて仕上げたサウンドは、うっすらと南部サウンドの香りを残しつつも、きらびやかでファンキーな雰囲気を持ち、とても耳に心地よい。特にペイチの洗練されたアレンジ、ポーカロの跳ねるドラムはアルバムの印象を決定づけている。(この2年後に彼らはTOTOを結成)
楽曲も粒ぞろいで、なかでもファンクナンバー「Lowdown」はアルバムを代表する曲であり、ブルー・アイド・ソウルのスタンダードである。この時期、ディスコ・サウンドの席巻もあって、それを意識したに違いないアレンジも特徴だ。この曲はシングルカットされ大ヒット。全米3位、グラミー賞最優秀R&B楽曲賞を受賞した。
ボズが人気の頃、やれ軟弱だ、これはロックじゃないと、ロック好きからはけっこうこき下ろされていたが、たまに聴くとポップでグルーブな雰囲気が気持ちいい。先入観で聴かないのは損だ。
次作『Down To The Left』は、さらに洗練さが増し、磨きのかかったブルー・アイド・ソウルの名盤となった。その次の『Middle Man』あたりまでが全盛期。それ以降は、マイペースでアルバム制作やライブを行っている。
2013年、久しぶりに『Memphis』をリリース。R&Bクラシック・ナンバーとオリジナルで構成されており、メンフィスで手練れのミュージシャンと録音されたそのサウンドは、渋さとまろやかさの絶妙な塩梅が素晴らしく、全米17位と好調。ボズの第2の全盛期を予感させる傑作だった。当時、毎日聴くほど気に入っていた。
♪好きな曲
Lowdown
曲自体がカッコいいが、キーボード、ギター、ストリングスによるアレンジが魅力を増幅させている。
Lido Shuffle
爽快なシャフッルビートの効いた曲、シングルカットされ全米11位とヒットした。
We’re All Alone
あまり言われないが、ボズのソングライティングの能力は高い。シングルカットされていないが人気の高い曲。もちろん作者はボズ。