Vol.37 Brain Salad Surgery EMERSON , LAKE & PALMER 1973
ライブ映えする楽曲がずらり、
絶頂期を迎えたバンドの人気作。
恐怖の頭脳改革/エマーソン、レイク&パーマー
代表曲にしてライブ映えする「悪の教典#9」を収録、じっくり時間をかけただけあって楽曲も演奏も充実。ケレンみだらけのパフォーマンスが走る。全英2位、全米11位、日本でもオリコンチャートに入った。
クラシックを大げさにアレンジした『展覧会の絵』や、ドラマティックな『タルカス』はそれほど好みではないが、このアルバムと1stは好きでよく聴いた。ELP(エマーソン、レイク&パーマー)の最高傑作だからというわけではなく、ロックンロール成分が高いおかげで一気に聴けてしまうからだ。
『タルカス』も完成度が高いが、重厚感に聴き疲れしてしまう。それに比べて、『恐怖の頭脳改革』には、ノリとスピードがあるので、耳にも脳にももたれないのだ。
おどろおどろしい邦題と、ジャケットに使われたメデューサをモチーフにした気味の悪いH・R・ギーガー(後に映画エイリアンのデザインを手がける)の絵から連想するイメージとは反対に、全体的に軽快で聴きやすい。
『恐怖の頭脳改革』は、ELPにとって5作目のアルバムで、自らのレーベル<マンティコア>の最初の作品でもある。’70年のデビュー以来、ハイペースで4作のアルバムを発表してきたわけだが、4作目の『トリロジー』の曲は、多重録音を多用したため、ライブには不向きだった。そこで新作ではライブでも、演奏可能かつ映えるような曲作りをめざした。
1年近くじっくりと時間をかけただけあって、楽曲も演奏も充実。前半に並んだのがタイプの違う4曲、後半は29分の組曲「悪の教典#9」である。
キース・エマーソンの押しの強いキーボード・プレイは攻撃的で、けたたましく、アクロバティックだし、カール・パーマーのパーカッションのようなドラミングはせわしない。本作ではこれまで以上にモーグシンセサイザーがふんだんに使われ、ハードで鋭いサウンドとなっている。
コンピュータに代表される高度なテクノロジー社会と人間性との闘争をテーマとした組曲「悪の教典#9」が聴きどころだが、組曲というわりにはパートの流れは強引である。
前半のハードロックっぽいパートでも、中間のソロプレイがめまぐるしいパートでも、後半の勇ましいファンファーレパートでも、エマーソンやパーマーのテンションの高いプレイが披露される。スピーディーで勢いがあってカッコいい。やり過ぎな感もあってちょっと笑ってしまうけど。
なぜそうしたサウンドが生まれたのか。それはキーボードトリオという小さなユニットが、ハードなギター擁するロックと張り合うためだ。エマーソンにしてみれば、そうでもしないとインパクトを残せないという思いがあったのだろう。
その結果、唯一無二のスタイルが生まれたのである。その意味で、ロックのイノベーターという面からでもELPはもっと評価されていいと思う。ところで80年代のアニメ映画『幻魔大戦』の音楽はエマーソンが手がけたわけだが、アク抜きした『恐怖の頭脳改革』みたいでわりと好きなんだ。
♪好きな曲
Jerusalem
冒頭を飾る荘厳な曲。英国の讃美歌で2012ロンドン五輪開会式でも演奏された。
Still…you turn me on
ELPの叙情を担うグレック・レイク作。唯一ほっとする曲。
Karn Evil9
めまぐるしい展開、矢継ぎ早に繰り出される技、終盤近くに「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌のようなフレーズが流れる。